2013.03.23 鉄と日本刀を訪ねる:出雲編(後編その3)
■ 日本刀鍛錬場
さてそれではいよいよ折り返し鍛錬について書いていこう ヽ(´ー`)ノ
ただしなるべく見聞したことを正確に書きたいとは思うけれど、筆者は素人なので間違いや勘違いがあるかもしれない。また取材後に調べて推測している部分もあり、刀匠さんの説明と必ずしも一致しない可能性がある。その点は、あらかじめお断り申し上げておきたい。
鍛刀の工程については備前長船編で概要を説明済みなのでここではカット。基本的な工程順は長船でも出雲でもほとんど変わらない。
鍛錬場の全景はこんな感じである。作業の肝心な部分は古式鍛錬(手打ち)も見せてくれるのだが作業の7〜8割は機械打ちで進行する。理由は作業効率による都合で、実作業を見ていればわかるけれども全部手で打っていたら時間内にはとても工程が終わらない。
またこの鍛錬場では、スプリングハンマーでの作業性を考慮して刀匠の立つ位置が掘り込みコタツのように穴になっていた。こうすると腰への負担がちいさくて長時間の作業が楽にできるのだという。…まあこれも、現代的な作業改善の一つなのかな。
使用する炭は松炭である。雑炭でコストダウンを図っていた "たたら製鉄" と違って、日本刀の鍛錬には最初から最後まで松炭が使われる。松炭は火力が強く、灰が少なく、炎の制御性もよいからだ。作業内容に応じて炭の切り方には幾通りかあるそうだが、一般的には3cm角くらいに切りそろえて使う。いわゆる一寸角というやつである。
※写真(↑)ではフラッシュの反射で白っぽくみえるけれども、全体には真っ黒である(^^;)
そして一段高いところには、守護神である金屋子様が祀られていた。
願わくば、どうか本日の実演が滞りなく成功しますように…南無南無…いや違う、アビラウンケンソワカ…でいいんだっけ(^^;) ひとつよろしく頼みますぜ♪
■ 火入れ〜玉潰し
それではまずは順当に火起こしから見てみよう。
刀匠さん曰はく、打ち初め式のような神事性の高い場合は、和釘を叩くのだという。書道の筆くらいある大きめの和釘を金床でカーン、カーン…と叩き続けると、やがて熱をもって赤熱状態になる。これを藁や紙に触れさせると燃え上がって種火になるのである。
ただし普通は一般的なライター(笑)で済ませてしまうのだそうで、今回の実演も普通のライター着火で始まった。神秘性としてはいまひとつだが…まあ、そこはそれw
着火してからしばらくは、大きな炎は立たない。ゆっくりと鞴(ふいご)で送風していくと、あるとき突然 「ボッ…!!」 と炎があがる。燃焼ガスが回り込むのに少し時間がかかる…という趣旨の解説をして頂いたが、料理につかう備長炭などとは燃え方がまったく異なるようだ。もちろん一般的なガスコンロともかけ離れている。こりゃすごいね。
今回は、玉鋼の塊から始まって、水減し、積み沸かし、下鍛えまでを行う。写真(↑)で金床に置かれているのが玉鋼である。
実物を持ってみると、非常に綺麗な銀色の塊で、意外に軽い。それは玉鋼がいわゆるスポンジ鉄の状態になっていて、隙間が多いからだ。
ところどころに青や金色の模様が付いているのは不純物だという。一見するとクランチチョコレートの粒々みたいな感じに見えるかもしれないが実際には非常に薄い皮膜になっている。小割される前の巨大なヒの状態では、この色のついた部分は気泡のような閉じた空間になっていて、その空間内でたたら炉の熱でガス化した不純物が閉じ込められ、蒸着膜となって析出するらしい。見た目は派手だが体積換算するとほとんどゼロにちかい。
この不純物は、きわめて微量に含まれることで刀に "ねばり" を与えるともいわれる。折り返し鍛錬を繰り返すうちに、微細な介在物として地金のなかで分散していき、適度なサイズの粒子となると硬さは保ちながらも "研ぎ性" や "靱性" がよくなったりするらしい。現代の玉鋼は出来が良すぎるのかこれが少な目で、研ぎ師さんに言わせると非常に硬いのだけれど研ぎにくい…との評価もあるようだ。
ためしに菅谷の高殿で入手したヒの破片を顕微鏡(x20倍)で見てみると、こんな感じ(↑)になっていた。お土産用に小瓶に入れて売っているものはあまり状態の良い玉鋼ではなく、歩ヒ(ぶけら)と呼ばれる破片みたいなものだが、まあ一応玉鋼の一種ではある。
顕微鏡カメラが安物なのであまり解像感は良くないが(^^;)、一見してドロドロの銑鉄が羊羹やゼリーのように固まった訳ではないことがわかる。砂鉄が粒状性を維持したまま還元されて、半溶融の飴玉みたいになってくっついた…という印象だ。隙間は非常に多い。
破砕面には気泡のような空間が多く見える。そのいくつかの内側には、不純物がカラフルな皮膜を形成していた。厚みはほとんど認められず、やはりきわめて薄いものである。
それにしても…こいつの化学組成はどうなっているのだろう。玉鋼で問題にされる不純物としてはP(燐)やSi(シリコン=珪素)、Ti(チタン)などがよく文献に出てくるけれど、果たしてこんな色が出るものだろうか。
※と思ってちょこっと調べてみたら、一般的な砂に含まれる石英(SiO2)や二酸化チタン(TiO2)は蒸着膜(コート)の典型的な材料で、もしかすると砂鉄に混じった砂粒がこういうキラキラ膜の元だったりするのかもしれない。…が、あんまり素人考察をしてハズレても恰好が悪いので(^0^;)、断定はしないでおこう。
さて玉鋼の塊を炭の中に埋めてからしばらく経過した。鞴をゆっくりと往復させながら、刀匠さんは炎の中を見つめている。
やがて玉鋼を取り出した。おお…日の光のような色に輝いている♪ ヽ(´・∀・`)ノ
まずはこの塊を、スプリングハンマーでゆっくりと叩き潰していく。
見ていると、どうも馬鹿力で一気にグシャ、とやるのではなく、かなりゆっくりと整形をしていくようだ。出っ張り部分を均して、コン、コン、コン…と、四角い形状を目指していく。
叩いているうちに玉鋼はどんどん冷えてくる。頃合いを見計らって再度炉で熱しては叩く…というのを繰り返していく。この段階はまだ温度は低めにするようで "沸かし" とは言わない。
玉鋼をいきなり高温でガンガン叩かない理由を筆者はこのとき質問しなかった(→そもそもよく分かっていなかったので ^^;)。…が、後で調べたところ、どうやら無理に叩くと玉鋼のスポンジ状の組織が崩れて飛び散ってしまうらしい。よくTV番組のイメージシーンで3人がかりくらいでガンガン鍛錬をしている映像が出るけれども、あれは作業の中盤以降の様子であって、最初はとてもデリケートな扱いが必要なのだ。
そのうち表面の凹凸が消失して、だんだん四角い豆腐のような形になってきた。この過程で内部の隙間も潰れて、芯の詰まった鋼の塊になっていく。
■ ここでなぜか小烏丸、登場♪
さて似たような作業の繰り返しの段になった頃、見学者の中にいたうら若き女性が 「本物の刀を見たいにゃん♪」 と所望された。刀匠氏は若い女性には大変に大変に大変に親切で、「ふむ、さようか、さようか」 と作成途中の小烏丸の写しを持って来てくださった。
これはちょっとしたサプライズで、筆者もまた便乗して見せて頂く幸運を得た。ナイスねーちゃん、もっと我儘を言ってくれても全然OKだよん♪(ぉぃ ^^;)
それはともかく、この小烏丸は日本刀の歴史を俯瞰するうえでは非常にシンボリックな刀である。見ての通り、両刃の直刀から片刃の湾刀に移り変わっていくちょうど端境期の形状をしている。刀剣用語では鋒両刃造(きっさきもろはづくり)などという。先端部が諸刃の直刀、根元の方が片刃の湾刀となっている。
オリジナルの小烏丸は、元は皇室の宝刀(桓武天皇の治世の作と伝えられる)であったものが、平安中期に平貞盛(?-989)が平将門の乱を平定したときに下賜され、壇ノ浦で平家が滅亡後は持ち主を転々と替えて、近世になって明治天皇に献上された。現在は皇室御物として宮内庁で保管されている。…まあ、かなりマニアックな一品である。
正倉院宝物庫の中にはやはり意匠の似た鋒両刃造の剣があり、奈良時代末期〜平安時代初期の頃の "日本刀誕生前夜" の様相をうかがい知ることができる。
※絵図はWikipediaのフリー素材から引用
その写しをこんなところで目にする機会に恵まれようとは、なんと幸運なことだろう。筆者も便乗して持たせて頂いたが、鉄の塊だというのに非常に軽くて振りやすかった。単なる鉄パイプなどと違って、重心の取り方がうまかったりするのかもしれない。
…おっと、いけない。この刀の話をあまり引っ張りすぎると鍛錬のレポートからズレていってしまうな(^^;) 日本刀黎明期の話は東北地方探訪と絡めて後日別途触れるつもりなので、ひとまずこの話は置いて、路線を元に戻そう。
■ コテ先の形成
そんな訳で玉鋼のその後である。幾たびかの過熱と整形を繰り返して、形はどんどん細身になっていく。
表面には酸化膜が出来て、ぽろぽろと剥がれ落ちていくのが見える。どういうプロセスによるものかは分からないけれども、このとき玉鋼の内部から不純物がこの酸化膜に移っていいき、一緒に剥がれ落ちるのだという。
刀匠氏は酸化膜が溜ってくると、水を含ませた藁束をパシっ、パシっ…と当てて、水蒸気爆発の力でこの皮膜を飛ばしていく。
皮膜を飛ばすとこのとおり綺麗な地金が現れる。見事なもので、ゴツゴツした塊だった玉鋼も、もうすっかり板コンニャクのような形状に整形されている。
この状態で、おもむろに水にジュボッ…♪
これが、やがて折り返し鍛錬を行うコテ先のベースになる。
…それにしても、まるごと水にドボンと浸けたのに、内部はまだ真っ赤に焼けているのだなぁ。金属は熱伝導性に優れる…と少なくとも学校では習った筈なのだが、実際には中心部と表面の温度差は数百度にもなる。それを五感を総動員して見極め、制御していくのだから職人のワザというのはナカナカに凄い。
<つづく>
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