2013.03.24 鉄と日本刀を訪ねる:関編:後編(その2)




■ 外装技能士実演を眺める




さて折返し鍛錬に引き続いて、外装技能士の実演があるというので再び館内に入ってみた。

見れば先ほど説明をうけたハイブリッド刀身の造りについての解説もちゃんとある。…が、刀身の作り方ばかり見ていると他が疎かになってしまうので、ここからは外装(拵え)の仕事について見てみたい。備前長船編では人が居なくてパネルだけ眺めて終わってしまったけれども、ここでは本物が見られる。




ということで、まずは鈨(はばき)造りのおぢさんから。鈨とは刀身と柄の境目にある金具で、鞘に刀が収まるときにすべり出ないように抑える働きがある。ちなみに時代劇の暴れん坊将軍では主人公:吉宗が刀を構えるたびにカチャリ、カチャリと音がするが、見る人が見れば 「あれって鈨が壊れているよね」 ということで実に危なっかしいらしい(^^;)

鈨は古くには刀匠が鉄で造ることもあったそうだが、時代が下るにつれて専門の職人=白銀師(しろがねし)が作るようになった。材質は柔らかい金属が好まれ、実用刀は銅、高級な美術刀は錆びの出ないよう銀や金で造られることもある。




作業はもうひたすら削って、磨いて…の繰り返し。えらく根気の必要な工程である。




日本刀は金型プレスで造っている訳ではないので一本一本形状が異なる。よって拵えもすべて現物合わせで作っていく。一見すると機械化できそうに見えて人手に頼るしかない工程と言うのは現代の精密機械にもあるけれど、日本刀はそれがかなり極端だ。



それにしても…刃のついた刀身をこんなふうに抱えて造りこんでいくとは筆者も知らなかった。
一歩間違えるとスパっと行ってしまいそうでちょっと怖い。




さてこちらは鞘師のおぢ…いやお兄さん(^^;) 鞘も刀身に合わせて一本一本オーダーメードになる。 美濃伝の刀はあまり反りが深くないので割とするりと鞘に収まりそうだけれども、湾曲の大きい刀では加工も大変だったのではないかな。



上の写真の右側のパーツは刀に合わせた彫りが入っている。筆者はもっとゆるゆるに作っておいて鯉口の部分だけピッタリ合わせるのかと思っていたのだけれど、そういうものではないようだ。本当に必要なところだけ浅く彫って刀に合わせている。




そうこうしているうちに白銀師のおぢさんから鈨が手渡された。




見れば削りも削ったり。エッジ部分の厚みは1ミリもないくらいに薄く出来上がっている。




これをスっ…と茎(なかご)に通して鯉口をどの程度彫るのかアタリをとっている。現物合わせはどこまで行ってもこういう作り方になる。今風の工業製品のようにCADでちょいちょいなんて訳には行かないのだ。




さて続いて今度は研ぎ師のおぢさん達。刀の出来不出来を最終的に決めるのが研ぎの仕上げであり、手間のかかり方も半端ではない。鍛冶押しといって刀匠自らがある程度まで研ぎを入れることもあるけれども、仕上げはやはり専門の研ぎ師に任せるのが普通である。




見ていて面白かったのは砥石の表面が丸いことであった。刀身の当て方も斜め方向にスライドシーソーのようにクネクネと動かしている。包丁や鉈の研ぎ方とは全然違う。




こんな研ぎ方でシャープな鎬や横手のラインを出していくのだから凄いものだな。




実演スペースの反対側には砥石の展示があった。やはり表面は丸みを帯びているものが多い。解説を読むと種類も多いようで、荒いものから細かいものまで多数が並んでいた。

筆者は素人もいいところなので受け売りみたいなことしか書けないけれども、聞けば日本は火山活動が活発なことから地層が複雑に入り組んでいて、本来なら地中深くにある堆積岩(砥石の多くは堆積岩である)の露頭が多くみられるらしい。おかげで多種かつ良質な砥石を潤沢に国内調達でき、これが固い鋼の刃を研磨する技術の発達を促したという。




これが他国とどう違うのかというと、地質の安定した(→火山や地震の少ない)大陸国家などではバリエーションの豊富な砥石がそもそも得にくいので、刃先はあまり硬く焼き入れせずに簡単に研ぎあげられるように仕上げたのだそうだ。そういう刀は鋭利に引き斬るのではなく、重さでぶった切るような刀になる。中国の柳葉刀(青竜刀)などはこの系統である。

日本刀はその対極にあって、軽くてスパっと切れ味鋭い仕上がりに進化した。砥石の産出具合がその国の武器の性格まで決めてしまうとは、ちょっと驚きである。




…さてしばらく眺めていると、研ぎ師のご老体は休憩に行ってしまった。

これは勿怪の幸い…とばかりに仕事の途中経過をじっくりと観察させて頂くと、研いでいたのは現代刀で、茎(なかご)に錆がないところをみると新作刀であるらしい。真新しい刀身は、鋼の銀色が輝いて美しかった。




研ぎ途中の刃先はこんな状態で、まだ面は安定しておらず横手の筋も成形途上。ここからシャープな仕上がりにもっていくにはまだ相当な研磨が必要だろう。

それを手作業で進めていく根気と集中力は並々ならぬものだなぁ…


<つづく>