2016.10.22 紅葉の田代山林道を行く(その3)




■ 山間部へ




さてそれではいよいよ、ライトな観光客の訪れない領域に踏み込んでいこう。

ところで道路がずいぶん貧相になったんじゃないの、とツッコミを頂きそうな状況(↑)になっているけれども、これは別段条件の悪いコースを選んで走っている訳ではない。湯西川周辺におけるダム開発以前の道路品質は、もともとこのくらいが普通だったのである。




湯西川ダム建設に伴う地元補償の一環として、現在の r249 は2011年頃までに大幅に改修された。しかしそれは会津西海道(五十里湖沿い)から湯西川ダムを経由して温泉街に接続するまでの区間で、その先の交通インフラは昔のままなのである。

2016年現在、観光バスがぎりぎり侵入してくる最奥地は平家の里のあたり迄となっている。ここから奥にはもう営業車両が駐車したりUターンできる場所はない(※)。公共交通機関で一般人が気軽にやって来られるのは、実質的に温泉街のあたりまでと思った方がいい。

※雪まつりの際には臨時の駐車スペースが設けられる場合がある。




ほんの10年ほど前まで、五十里ダムから湯西川に向かう道路もこんな感じの隘路で、そこを抜けた先に温泉街を見出すと 「おお秘湯だ!」 という気分に浸ることができた。

それが今ではすっかり拡張されて、気楽にアクセスできるようになった訳だが、"その先" に一歩踏み込むと、忘れかけていたかつての風景が顔を覗かせる。ここに来ると、なにやらタイムマシンで時空の壁を飛び越えたような感覚を覚える。




対向車がくるとすれ違うことも困難な狭い道を進んでいくと、徐々に高度があがってくる。平面地図だけ見ていると分かりにくけれども、温泉街から林道入り口までの標高差は450m、気温差は3℃ほどもある。




高度があがると景色も変わってくる。緑色の木々が減って黄色基調になり、そこに赤みが混じるような景観になった。こうなってくると、いかにも秋の山という感じになってくる。




ここ(r249の区間)が栃木県の県道に昇格したのは昭和36年のことであった。元は猟師道のような山道があったといい、それがいつの頃かクルマの通れる程度の傾斜の巻き道になって栗山村の村道となり、のちに県道に昇格した。現代なら大きめの橋梁でショートカットするであろう沢筋を地形に合わせて縫うようにして通してあるところをみると、自動車道路としてのルートデザインは昭和10年代くらいのセンスのような気がする。




おお・・・だんだん見晴らしが効くようになってきた。




道路の周辺では、黄色の発色のすばらしい木々が散見されるようになった。ここ(↑)で標高はおよそ1000m、このくらいまで上がってくると湯西川温泉街よりも一段グレードの高い色彩が見られるようだ。




■ 田代山林道に入る




やがて標高1193mまで登った地点で、T字路にぶつかる。ここが田代山林道(r350)の起点になっている。r249は土呂部方面に折れて山を下っていく。




なぜこんな接続になっているのかについては、もうすこしロングで地形を俯瞰すると分かりやすい。ここは旧日光山領内にあった湯西川集落と土呂部集落を結ぶ山道がもとになっている。

山岳部の道は水を得やすい河川に沿ってつくられるのが古今東西のパターンで、湯西川集落は湯西川沿いに、土呂部集落は土呂部川沿いに道を拓いた。双方の川を源流まで遡っていって、分水嶺の峠をちょいと超えて接続したのがr249の元となった道で、その接続部から田代山に向かって伸びた "枝" が田代山林道である。




分岐の現場はこんな状況で、かなりそっけない造りになっている。標識は 「土呂部・黒部方面」 と 「湯西川方面」 があり、田代山林道方面にはどこに通じているのかの案内はない。標識くらいは出しておいて欲しいものだけれどなぁ・・・(´・ω・`)




林道に入ってしばらくは樹木の中を通り、視界はあまり効かない。数百mほど進むとようやく木々の間から遠景がみえるようになる。




おお・・・! ちょっと曇り基調・・・というかガスってしまってはいるけれど、このロケーションはなかなか良いな ヽ(´ー`)ノ




路面は吹きさらしになる稜線のてっぺんではなく、20mくらい下がった高さで造られている。だから視界は基本的に片側展開になるのだが、ときどき道路の通っている斜面が左右入れ替わって反対側の景観もみることができる。




それにしても人の手が入っていない原生林の紅葉は素晴らしい。

人里に近いいわゆる "里山" では、植林によって経済性のたかい樹木(杉など)が植えられて、幾何学模様のような樹相の境目が見えることが多い。ここでは殆ど人の手が入っていないので自然の落葉広葉樹の森の姿がみえる。日本の山岳における本来の風景である。




ちなみに "里山" とはこういう(↑)状態のところを言う。きっちりとした明確な定義があるわけではないが、環境省では大雑把に "原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域" としている。

ここでいう "二次林" というのが、自然の植生(一次林)が伐採されたあとに再生(植林)された森で、樹目としては建築材として有用な杉や檜が多い。これらは冬でも葉を落とさないので植林部分の境界がくっきりと目立つ。




実は先ほど "湯西川水の郷" で見た風景にもこの境界が見えていた。この写真(↑)では正面の山の左半分が植林された檜(ヒノキ)の群落で、紅葉している右半分=落葉広葉樹林とは明瞭に違う顔を見せている。  集落に近いエリアで "治山" を行うと、多かれ少なかれこういう状況が進行していく。




一方、田代山林道の周辺はあまりにも山奥過ぎてこういう人工林が造られなかった。

ここに繁茂している樹種は、ブナ、ミズナラ、トチノキ、カエデ、ツツジ類が多い。いずれも落葉広葉樹の極相林の常連で、日本の中部以北の山岳部は放っておけばこれらの樹種に覆われて安定した森に至る。

枝がクネクネ伸びるので建築材には使いにくいが、ブナ類の木の実はいわゆるドングリであるから、縄文人にとってはここは食糧供給の森でもあった。・・・ということは、彼らにとっては紅葉=食い扶持のサインだったのかもしれない(^^;)




おっといけない、調子に乗って余談が長くなってしまった(^^;)

では余計な話は脇に置いて、いよいよ稜線の道を行ってみよう。



 

■ 馬坂林道分岐点




r249からの分岐点から1kmほど進むと、道が二股に分かれている。

右が田代山林道、左が馬坂林道である。馬坂林道は川俣ダム湖方面に降りていく林道で、この日は全面通行止めの標識が出ていた。田代山林道は 「走行注意」 とのみされていて、ゲートは開いている。




ここからは道路の品質が大幅にダウンして未舗装路になっており、連続雨量70mmで通行止めになるという恐ろしく弱気な管理基準表記が見える。

これだと梅雨の時期には実質的にゲートを開けられない。秋雨前線が停滞する9月も条件としては微妙だ。・・・つまりそういう事情があって、気候の安定する中秋(10月〜)に解放されていると思えばよいのだろうか。





■ 尾根道を行く




しばらく行くとにわかに舗装面があらわれた。崩落防止の工事のついでに舗装も試みました・・・と言う感じで、基本的にこの道は未舗装のダートなのだが、ときどきこんな感じの路面になる。相変わらずクルマ1台ぶんの道幅しかないけれども、それなりに走りやすい。




このあたりから、紅葉は極楽のような色彩になった。




そのまま、ひたすら稜線の道を行く。




これだけ色が乗っていると、空気のクリアな時に休暇を取ってでも来てみたいところだな。

実をいうと筆者はこの季節、湯西川温泉くらいまでは来ても、ここまで登ってくることはなかったのである。しかしこれを見てしまったからには、少々反省して日帰り圏の紅葉スポットを再評価せねばなるまい(^^;)




その第一歩として、紅葉チェッカーに 「田代山林道」 を付け加えてみた(速っ ^^;)。アメダス観測データは土呂部から換算、標高は1400mで設定している。それでこの日の状況をグラフ化すると、5℃未満の累積日数が18日、3℃未満の累積日数が14日となった。

これだと那須〜塩原の基準では "紅葉のピークをやや過ぎたくらい" と判定される状況である。しかし田代山林道から見える紅葉の木々は林道より数百m低い斜面に分布しているので、このくらいの時期に見に行ってちょうど良いくらいになる。これはこれで、有用な知見である。




ちなみに写真中央付近の谷底までの標高差が凡そ500mくらいで、谷底は道路の位置より3℃ほど気温が高い。ガスっていて少々見えにくいけれども、紅葉バンドの下端はまだ谷底までは降り切っていないようにもみえる。この次にトライするなら、そのあたりも鑑みて最適時期を読み切るようにしたいところだ。




さて遠景ばかりではなく、道路沿いの近景も撮ってみよう。赤色もさることながら、この付近の木々は "黄葉" の黄色の純度がとても高い。葉緑素の消滅 → 純度の高い黄色 → 赤の立ち上がりのリレーが理想的にうまくつながっているように思える。




そしてその赤色がまた、素晴らしく鮮やかなのだ。・・・いったい何が作用して、こんな色が出るのだろう。不思議なものだな。




■ 四駆とバイク




ところで紅葉の写真ばかり並べていてもマンネリになってしまうので、ここで林道の交通事情の話を少し書いてみたい。本稿の冒頭でここは四駆とバイクの世界だ、と書いたけれども、どちらが主役かといえば実は圧倒的にバイクである。

もちろん渋滞するような密度でいる訳ではなく、遭遇確率は10分に1回くらいすれ違うかどうか・・・という程度だ。しかしそれでも林道としては交通量は多い方だろう。バイクはグループを組んでツーリングしている人が多く、ナンバーを見ると県外から来ている人ばかりだった。




クルマが少ない理由は、林道が通れるのか通れないのか、なかなか事前に分からないというのが大きい。

今年は時間制限の表記は無かったけれども、昨年は午前7時から午後5時までしかゲートが開かず、遅れると閉じ込められてしまう恐れがあった。通行条件が毎年コロコロ変わるので、いざとなればゲート下をすり抜(中略)こともできるバイクのほうが融通が利く・・・というのが、途中で逢ったツーリングおっさんの主張であった。




さてじわじわと高度を上げて、1450mくらいまで上がってきた。だんだん雲が晴れて青空がのぞいてきたな・・・さっきの極楽景観のあたりで日差しがくれば最高だったのに。




それはともかく、たいして標高が上がっていないわりに紅葉具合は少々ピークを過ぎたかな・・・という状況になってきた。峠まであと2km・・・それだけ環境が厳しいということなのかな。




やがて鞍部をまたいで稜線の反対側に道路は抜けていく。




黄色の鮮やかな木があったので 「おや、栃の木かな…」 と思ったら、ミズナラであった。風の当たり具合が違うのか、地形によって季節が前後するような景観が続いていく。




・・・とはいっても、全体的にはだんだん晩秋の面もちになってきた。うむむ。


<つづく>