写真紀行のすゝめ:お出かけとか


続:紅葉の見頃を見定める 〜積算日数で判定する試み〜


しばらく間が空いてしまいましたが、なんと今回も紅葉の見ごろのお話です(^^;) 前回は 「最低気温≦5℃」 を目安にすると良いという趣旨の話を書きました。実際の撮影実績からも、概ねそれで合っていそうだという感触を筆者は持っています。

…が、なにごとにも改良の余地というのはあるもので、今回はその判定精度を上げる方策について考察してみようと思います。なんだか理科の自由研究みたいなノリですけれども(笑)



 

■ 気温の乱高下があると判断が悩ましい


秋になると気温が下がってきて、やがて最低気温が8℃を下回ると葉が色付き始め、5℃を下回るようになると本格的に色付く…という話は、紅葉に関するウェブサイトを検索すると割とどこででも書かれています。しかし季節の移り変わりはそれほど単純ではなく、気温は中学校で習う一次関数のように綺麗な一直線で下がってくる訳ではありません。

秋雨前線が去って紅葉の季節が訪れる頃、日本上空は移動性の高気圧、低気圧が周期的にやってきて気温も波打つように変動していきます。さらには台風が日本近海を通過すると、夏の空気と秋の空気がかき乱されて極端な寒暖差が生じたりします。これが、とても悩ましいのです。




一例を挙げてみましょう。これ(↑)は2013年の那須:姥ヶ平の現地気温の推移です。この年は台風の当たり年で、近海を台風が通過するたびに気温が大きくアップダウンしており、移動平均(5day-MA)でなめらかにしたグラフでざっくり傾向を追いかけているだけでは明瞭な紅葉のサインを掴みにくい状況でした。

ただ日々の個別値を見ていれば気温の下がったタイミングは読み取れます。これを利用してもう少し精度の高い指標で紅葉の端緒を掴めないか…と、筆者は思った訳です。



 

■ 日々の個別値にランク付けすると?


実は(紅葉とは現象が違いますが)桜の開花予想は日々の気温の寒暖に合わせてある計算式で係数を積み上げていってある閾値を超えるかどうかで予想しているそうです。花芽の成長は基本的に 「後戻り」 は無いのでこういう積み上げが可能なんですね。紅葉も似たようなもので、冷え込みでいったん色付いた葉はその後暖かい日がきたからといって緑色には戻りません。それなら冷え込んだ日数を積算(累積)していけば、きっと 「このへんで色付きが鮮やかになる」 という境界条件のようなものが見つかるでしょう。

そこで過去の撮影記録を整理して、日々の最低気温を 5℃未満、4℃未満、3℃未満 に分級してその出現頻度をカウントしてみました。分けて数えたのは冷え具合にも等級(ランク)があるだろうと思ってのことです。まずは代表的な事例から見てみましょう。


【色付いてはいるが今一つ…の事例】



まずは過去の撮影記録から2012年の鬼怒川渓谷の龍王峡と、那須姥ヶ平の 「色付いてはいるけれど鮮やかさがイマイチ」 の事例です。このときの龍王峡は5℃未満の積算(累積)日数が7日間とそこそこあったのですが、4℃未満の日が1日、3℃未満は0日と、明らかに冷え込み不足で色付きが進行していません。ぎりぎり5℃を下回った程度で日数を重ねても、なかなか鮮やかな色は出てこないようです。

姥ヶ平の事例は5℃未満となったのはわずか3日間ですが、そのうち2日が3℃未満と強い冷え方をしたのでそれなりに色付きが進んだようです。ただいずれにしても、もうあとひと踏ん張りが欲しい…といった状況でした。


【色付きの良い事例】



次に色付きの良かった事例です。2013年の姥ヶ平は台風通過に伴う気温低下でググっと色が乗った傾向が明瞭に出ていました。筆者が現地入りした10/6時点で5℃未満が9日、4℃未満が3日、3℃未満が3日で、カウント値は前述の龍王峡のパターンにやや似てはいますが、わずか3日間とはいえ強い冷え込みがあったことが効いたように思えます。このあたりに、見頃となる境界条件があるのかもしれません。

また2012年大曲りの事例は温度推移のグラフ(5day-MA)では5℃近傍をヨタヨタしているように見えたのですが、撮影に訪れた11/4までに5℃未満の累積日数が17日も積みあがっていて、そのうち11日間が3℃未満の強い冷え込みのあった日でした。ここは文句なしに見頃ドンピシャリでした。


【そろそろ終わりかな…の事例】



次に示すのは見頃の末期に近い状況です。2012年のハンタマ(ハンターマウンテンスキー場)では5℃未満=23日間、4℃未満=19日、3℃未満=15日間で、これだけ積みあがれば色付きには十分なのですが、葉の寿命の方がもたずに落葉が始まっています。写真の木はちょうど吹きさらしの位置にあって、ロッジの建物脇にある木はまだ葉をたくさん蓄えていましたので、どこまで見頃が続くのかは環境次第といったところでしょうか。

同じく2012年の白滝は、地形的に風が当たりにくいせいか楓はしぶとく残って鮮やかな紅葉を見せていました。5℃未満=23日、4℃未満=19日、3℃未満=17日で、冷え込み条件としては十二分といえましょう。ただ写真の木以外はほとんど落葉状態に近く、末期に近いことはたしかです。

ちなみに気象庁は紅葉の見頃の持続期間を2週間と見積もって予想を発表していました(2008年を最後にやめてしまいましたが ^^;)。そこから鑑みるに、最低気温が5℃を下回って20日を過ぎるとそろそろ葉の寿命が限界…というのは、まあ妥当なラインなのかもしれません。




■ 最適条件は何?


…ということで、ざっと過去の撮影事例から適当にピックアップして表にまとめてみました。



これは 「確認日」 の日付に現地に出かけて行って、その時に見頃であったかどうかの星取表です。当初は、よく言われているように最低気温が5℃以下の日数を単純に数えれば良いのかな…と思ったのですが、どうやらそれでは明瞭な端緒は掴めないようで、3℃以下に冷え込んだ日が3日以上累積するというあたりに見頃となる境界条件があるように思えます。

もちろんこれは那須〜塩原周辺を中心としたサンプリング結果から現時点で言えることで、どこまで普遍性があるかは保証の限りではありません(^^;)。 しかしまあ、それを確認しながら秋の行楽に出かけるというのも愉しみのひとつと捉えて、この秋の紅葉を筆者は楽しもうと思っています。