写真紀行のすゝめ:お出かけとか


紅葉の見頃を見定める


今回は紅葉狩りに出かけるときの見極め具合について書いてみようと思います。毎年9月も後半くらいになってくると検索ワードで 「観光地の名前 + 紅葉 + 見頃」などの組み合わせが上位に上ってきます。旅行会社のWEBサイトでもパック旅行の宣伝を兼ねて紅葉特集などが組まれたりしますね。

でも紅葉というのは自然現象ですから、その年の気象状況によって早かったり遅かったり、あるいは色づきが良かったり悪かったり、さらには休日の天候具合との相性もあったり(笑)…と、なかなかに悩ましいところがあります。そういう不確実性をなるべく排して、綺麗に染まった紅葉の頃合を見定めるにはどんな方法があるだろう…ということを、ここでは考えてみましょう。




■ そもそも紅葉の色づく条件とは


さてまずはこの種の話題では定番(?)らしい 「紅葉の仕組み」について一通り書いてみます。といっても普通の表現ではつまらないので、大雑把に @緑成分の脱色 A赤色成分の着色 の2系統の現象があるという視点で述べてみます。

@緑が脱色して黄色くなる

ここでいう脱色とは、葉の「緑」が無くなっていくということです。秋が深まると気温が下がり、日照時間も減っていきますが、このとき落葉樹では葉緑素(クロロフィル)が失われて脱色が進んでいきます。

するともともと葉に含まれていた黄色い色素(カロテン類)が目立ってきて、葉が黄色く染まったように見えます。これがいわゆる "黄葉" の状態で、樹種によってはこれで終わってしまうものも多く、銀杏(イチョウ)などはその代表例といえます。

なおこの現象は秋でなくても痛んだ葉では時々見られ、たとえば台風の直撃があった年などはまだ気温が高いのにちらほらと葉が黄色みを帯びている木を見かけますし、猛暑の年はいわゆる "葉焼け" として葉緑素が失われる場合もあります。

A赤系の色素が合成される

@とほぼ同時に、樹種によっては光合成で作られた糖分を材料にして色素(アントシアニン)の合成が進行します。これが赤色の正体で、色素の合成がすみやかに進んだ場合は葉が真っ赤に染まり、なかなか進まなかった場合はカロテンの黄色成分が残ってオレンジ色っぽい葉になります。人によってはこの色具合を見て 「今年は当たり年だ」 とか 「外れ年だ」 と言ったりします。

色づきのプロセスが黄色までで止まってしまう樹種と赤色に染まる樹種の違いは、アントシアン系色素を合成する酵素をもっているかどうかで決まります。アントシアン系色素は花や果実の色の成分でもあり、純化学的にはカラーバリエーションは豊富らしいのですが、紅葉においては葉のpHが酸性側に寄っていることからほぼ赤色のものばかりが合成されます。



ちなみに年によってこの赤色がどのくらい変わるかというと、姥ヶ平の2011年と2012年で面白い差が見られたので示して(↑)みます。撮影アングルは異なりますが同じ木です。

2011年は非常に明瞭な赤が出ていましたが、2012年はオレンジがかった色になっています。2012年は紅葉が始まる頃に気温の上下が大きく、色づきが始まってから1週間ほど高温にもどってから再度寒くなったので、十分にアントシアニンの合成が進まなかったのではないかと推測しています。ただし場所(標高)を変えると鮮やかな赤が見られる所はいくつもあり、特定のスポットで発色が悪かったからといって、山のすべてが同じような傾向を示すわけではありません。



 

■ おおまかな目安は最低気温≦5℃


ところで紅葉の色づく目安としては、天気予報では 「紅葉前線」 のマップが発表されたりしますがこれは大雑把すぎて実はあまり役に立ちません。 ローカルポイントの一般予測としては過去の統計データから求めた気象庁の近似式として

y=4.62×T−47.69

というのがあり、Tにその場所の9月の平均気温(℃)を代入すると10月1日からの経過日数として見頃の最盛期 y が得られます。気温だけで予測式が成立するのはそれだけ温度依存が明瞭だということです。

ただしこの式は9月以降の気温変動は加味しない完全な決め打ちで、予測誤差が±6日ほどあり、これを大きいと見るか小さいと見るかは少々微妙です。筆者的には 「最大12日のズレが出るのは許容してね♪」 というのはもう少し頑張ってほしい気がしますけれども…(^^;)

※とはいえ例年紅葉の予想が発表されるのは9月の後半から10月初旬にかけてで、これをもとに行楽ビジネスが動き出すことを考えると、その時点で得られる情報だけでなんとか近似式を練り上げた気象庁にツッコミを入れるのは少々酷な気もします。




さてそれではもう少し予測の精度を上げようとすると、どうしたら良いでしょう。…これはもう、ほとんど議論の余地なく 「現地の冷え込み状況をできるだけ詳細にモニターする」 ということになります。

実際の紅葉は、天気予報で表示される 「紅葉前線」 の日本地図のように面で塗りつぶされていくわけではなく、等高線を幅広にしたようなバンドを形成して高地から低地へと降りてきます。筆者が実際に2012年に日光〜塩原を巡って調べたところ、おおよそ 「最低気温≦5℃」 が主に楓の赤色が鮮やかになる境界になっていました。一般に紅葉が始まるのが最低気温8℃、色が鮮やかになるのが同5℃と言われますが、どうやらそれは正しいようです。

なお8℃ラインに達しただけでは葉の色は何となく黄色くなり始めたかな…という程度で、写真栄えはあまりパっとしません。やはり絵になる紅葉がほしいのであれば5℃を目安にしたほうがよさそうで、また紅葉の赤色は最低気温が氷点下になると褪せてしまいますから、見頃の持続期間は 「霜が降りるまで」 と思えばよいでしょう。 その期間は高山であるほど短く、低地では長めになります。

現地のローカルな最低気温は、最寄のアメダス観測点もしくは測候所のデータ(気象庁のウェブサイトで見られます)から -0.6℃/100m のレートで標高換算するのが最も簡便です。筆者は自分用に紅葉チェッカー(地元限定 ^^;)なる仕掛けを作ってみましたが、現地の標高がわかれば全国どこでも同じ原理で 「そろそろ見頃かな?」 というローカルチェックは可能だと思います。

もちろん現代はネット時代ですから旅行ブログやTwitterなどで投稿された現地情報を見て決めるというのも悪くはありません。温泉旅館やペンションのオーナー氏が紅葉情報を更新してくれていることもあるので、それも併せてうまく時期を見極めたいところです。



 

■ 樹種による見頃のばらつき


さてひとまず5℃という温度基準について触れてみましたが、これで紅葉のすべてが説明できる訳ではありません。

ぶっちゃけた話、5℃というのは基準木を "楓" にした場合の最適条件で、ウルシやドウダン、ナナカマドなど派手な色の木々がほぼ同時に色づくのでよく参照されているというだけです。そしてもちろん、これに当てはまらない事例はいくつもあります。

とくに赤色色素であるアントシアニンの合成については農業関連でいろいろと面白い研究がなされていて、野菜や果実の色づき具合(つまりは商品価値)を左右する条件がどのあたりにあるか…という報告がいくつもあります。よく検索で引っかかるのがリンゴの赤色で、発色のよくなる温度条件は早生種では15〜20℃くらい、晩生種では10℃前後だそうで、品種によって結構な幅があります。これは色素の元になる糖分、そしてアントシアニンは水溶性色素なので溶媒としての水分量、エネルギーとしての軟紫外線量、さらに色素の合成を促進する酵素の活性化条件が絡み合って決まってくるものだそうです。紅葉もおそらくは似たようなものなのでしょう、樹種によって色づく時期にはばらつきがあります。

楓の紅葉と一致しないものとしては、草紅葉(草黄葉)がかなりフライングスタート気味に始まる傾向があるように思います。最近園芸用として人気があるらしい箒草は楓よりも1ヶ月ほども早く色づきますし、赤系ではありませんがイネ科のススキやチガヤ(ものによっては赤くなる)も早いです。身近な樹木としてはハナミズキ、カツラ、桜(ソメイヨシノ)の紅葉がかなり早く進行します。

ただそういうものをひっくるめても、日本人が好む紅葉というのは結局は楓に修練してしまうようで、今年の観光シーズンもその流れで行楽客がドドっと動くのでしょうね(^^;)



 

日程を動かせない場合はコースポイントを選ぼう


さて世の中は年中いつでも旅行に出かけられるお金持ちの暇人ばかりとは限りません。紅葉狩に出かけられる日程が限定されてしまう場合、なるべく外れクジを引かずに済ませたいなら、神社仏閣や庭園などの一点ポイントではなく、高低差のある山岳道路に出かけるのをお奨めします。

気温は100m上昇する毎に0.6℃下がります。10月の栃木県の気温推移でみると、那須も日光もだいたい1日あたり0.42℃くらいのレートで気温が下がりますので、たとえば山岳道路で標高500mぶん移動したとすると、1週間タイムスリップして暦を進めたのと同じ効果があるわけです。ロープウェイやケーブルカーで数百メートルの高度を稼いでしまっても同じことで、途中どこかに必ず見頃があるようなコース設定をすれば、まあ大外れの撮影旅行にはならずに済むと思うのです。

いずれにしても、せっかく出かけるのですから賢く動きたいものですね。