2016.02.16 常陸~房総周遊記:野島崎編(その4)
■ 道の駅:南房パラダイス(アロハガーデンたてやま)
あそことは、ここである。平砂浦で唯一の道の駅 "南房パラダイス" だ。
…といっても最近の地図にはこの名称ではなく 「アロハガーデンたてやま」 で載っていることが多い。アロハというからにはもちろんハワイアンな観光施設で、いくら暖かい地方だからと言ってハワイは飛躍のしすぎだろう…というツッコミはごもっともなところ、せっかくなのでノリで入ってみることにした(^^;) …それにしても日本人はハワイが大好きだねぇ。
場所は平砂浦のやや東寄りのあたりで、案内板がドーンと出ているのでまず見落とすことはない。展望タワーもあるので遠景を眺めるにもちょうど良かったりする。
※前回来たとき(震災の2週間前)は1kmほど西側のファミリーパークに立ち寄って、ここはスルーしてしまっていた(^^;)
ここはもともとは "南房パラダイス" という名の県営植物園で、かつて(1970~1980年代頃)は南房総で最大の人気を誇った観光施設であった。最盛期には年間40万人ほどの来場者があったという。
しかし21世紀に入ってからは設備の老朽化もあってあまりぱっとせず、東日本大震災後の観光需要の落ち込みを機に閉園してしまった。その後、民間資本に売却されて大幅にリニューアル(2014)され、ハワイアンな雰囲気を過剰に注ぎ込んで現在の形になっている。
立ち寄る際に注意すべきなのは、道の駅とは言っても無料で入れるのは駐車場と売店までで、肝心の植物園のエリアは有料だという点だろう。
そーゆーのってアリなのか? …と思って調べてみたところ、国交省の基準では 駐車場+トイレ+公衆電話+情報提供施設 が24時間使えれば道の駅として登録できることになっており(※役所による審査がある訳ではなく登録するだけ)、"ここから先は有料でございます(…てへっ♪)" というのは些(いささ)かトリッキーな造りではあるが、まあ有り得なくはないのである。うーん、そうなのか。
筆者的にはとりあえず南国の雰囲気が味わえればよいので、まあ細かいことは気にしない。せっかくここまで来たのだから、とにかく踏み込んでみよう。
■ いざ、アロハな庭園へ
そんな訳でさっそく入場。おお…! ハワイアンというより無国籍風の南国庭園といった感じだが、雰囲気は良さそうだ。以前はマーライオン(シンガポールのシンボル)があったりしてアジアの熱帯をイメージした造りだったそうだが、現在は所々に置かれたオブジェがハワイアン寄りになっている。
この日は平日ということもあって、来場者はまばらであった。広々とした庭園を歩くと半ば風景を独占したような気分でナカナカ気分はよい。付近には視界に入るような民家や高圧鉄塔などは無く、写真を撮る際の自由度が高いのがナニゲにポイントが高い。
さてここは基本的に植物園なので、少し椰子(ヤシ)について触れてみたい。平砂浦は防風林として松が植えられており、この敷地の中にも黒松が多い。しかし蘇鉄(ソテツ)や椰子(ヤシ)のシルエットのほうが存在感が大きく、南国ムードはよく演出されている。
椰子には熱帯でしか育たない種と、多少の低温なら耐えられる種がある。園内に露地で植えられているのは霜が降りない程度の温帯地方なら越冬可能な樹種で、写真(↑)はその中でもポピュラーなカナリーヤシ(カナリヤ諸島原産なのでそう呼ばれる)である。園内にはこれが多い。
こちらのひょろんとしたのはワシントンヤシモドキ。モドキとはいってもちゃんとした椰子の仲間で、背が高くカッコよく育つので街路樹としてよく植えられる。これも比較的耐寒性がある樹種だ。
では本場のハワイで見られるのは何かと言うと、圧倒的にココヤシ(↑)である。椰子科のなかでは大振りで優美な葉の曲線をもち、この木の実がいわゆるココナツになる。ただココヤシには耐寒性は全然ないので、南房総では代替樹種でそれらしい雰囲気を作っているわけだ。
もちろん代替樹種だからといって残念感に浸る必要はない。ココヤシは実が大きくて重く、落ちるときに人やクルマに当たって事故を起こす事例が結構ある。一見すると綺麗で格好がいいのだけれど、メンテナンスの手間は大変なのである。南の島でも都市部や海岸では敢えて代替樹種を植えていることもあるので、そのへんを含みつつ、四捨五入して南国感を味わうのが良いと思う。
■ 温室に入ってみる
さてそれではいよいよ温室に入ってみよう。アロハガーデンの見所は実はこの温室である。大小とりまぜ300mくらいにわたって温室の列が続いている。大きいものは高さ20mほどにもなる。
一歩踏み込むと…うわっ、なんだこのムっとくる暑さと湿気は…?( ̄▽ ̄;)
どうやら温室といっても単にガラスで囲って放りっぱなし…という感じではなく、ちゃんと空調にお金をかけて温度/湿度を管理しているようだ。体感的な物言いで申し訳ないけれども、室温は30℃前後、湿度は70~80%といったところだろうか。カメラのレンズは曇りまくりで超ソフトフォーカスとなり、もう笑うしかないw
温室は通路でつながっていて数珠つなぎのように巡っていける。見ればリアルでパイナップルも実を結んでいる。これが栽培できるのは沖縄本島が北限くらいだそうだから、千葉県で見られるのはかなり貴重といっていい。
レンズ温度が馴染むまでには、たっぷり15分ほどかかった。撮影に慣れていない人はカメラが曇ると慌ててしまうかもしれないけれども、温度が馴染んで来れば自然と曇りは解消する。筆者もようやく意図しないソフトフォーカスから解放されて一安心(笑)
さてこれはブーゲンビリアである。さすがに温暖な南房総でも、これを露地栽培で2月に見るのは難しく、温室の中での鑑賞となる。一方で南国ムードを盛り上げるハイビスカスは残念ながら開花期(6~10月)ではないので見られなかった。…まあ、これは仕方がない。
別の温室に移ってみると、熱帯雨林を模した構成になっているようだった。滝まで作ってあるとは凝っているな(^^;) 滝の周りにちらほら見える赤い花はアンスリウムで、この季節には事実上これとブーゲンビリアが温室内の赤色成分であるようだった。
季節要因で花の多い少ないはあるものの、温湿度管理が行き届いているせいか葉の茂り方は瑞々しい。
筆者は当初は菜の花が見らられば良いくらいの気分で千葉県の南端まで来てみたけれども、ここまで見られれば充分遠出をした甲斐があったと思う。…というか、もはや千葉県のアイデンティティは消失して 「いったいここはどこですか」 的な雰囲気ではあるのだが、まあそこはそれ(笑)
さて温室からいったん出て、イベントホールのほうに向かってみた。温室の中を見てしまうと、露地の芝生が枯葉色になっていることに気が付き、今が真冬であることが思い起こされる。…が、椰子の木の群れがトロピカル感を押してくるのでギリギリハワイアンな感じでもあり、不思議な感覚を覚える(^^;)
イベントホールは入場はフリーだが中は閑散としていた。さすがにオフシーズンの平日ではイベントはない。週末にはフラダンスなどが行われているらしいが、本日のところはここはゴージャスな公衆トイレ(それ以外に利用できる施設がない ^^;) としてしか機能していない。本格的に楽しむのなら、催し物の多い夏に来るべきなのだろう。
イベントホールを出ると、奥の方にも温室があった。南国系の果樹が植えられているそうでフルーツガーデンなどと銘打ってある。うーむ…本当にここは、温室パラダイスなのだな。
そろそろ残りの時間を気にしながら、一応入ってみる。…おお、バナーナ! ヽ(´ー`)ノ
これはカカオかな。生で成っているのは初めて見たけれど、幹から直接花が咲いてこんな実を結ぶとは面白い。この中に種(カカオ豆)がぎっしりと詰まっていて、チョコレートの原料になるのか。
ところでハワイでチョコレートと言うとマカダミアナッツチョコレートが有名だけれども、ハワイでは実はカカオは栽培されていない(ハワイ産なのはマカダミアナッツの方)。カカオは直射日光に弱いのでいわゆる大規模プランテーションで広大な畑をつくるのには向いておらず、大資本が手を出さない微妙な作物なのだそうだ。コートジボワールとかガーナなど小規模農家の多い国が産地の上位になっているのは、そんな理由がある。
…おっと、余計な薀蓄(うんちく)を並べている間に時計をみるとそろそろタイムリミットだ。他にもいくらか見所はあったのだが、温室はここで切り上げることにしよう。
■ 平砂浦から見える遠景
さて最後に筆者は展望台から遠景を見渡してみることにした。
ここはリニューアル前は(主に老朽化により)閉鎖されていたそうだが、現在では小奇麗に整備されて登ることができる。高さは30mほどで、周りが平坦な地形だけに展望は良いらしい。
※一見するとエレベータがありそうだが、ここは階段で上るしかない。
これがそのタワーから見た平砂浦の遠景である。温室の並んだ向こう側には防風林としての松林が広がり、さらにその向こう側が砂丘になっている。浅い砂地の海なので海面はややエメラルド色がかって綺麗に見えている。冬らしくない、冬の風景…筆者にとっては、なかなかに希少価値を感じるものだ。
正面の海には、伊豆大島が見えた。午後になって、雪解けはさらに進んだらしい。
その向こうには、利島(としま)がみえる。
さらにその向こうには、新島の島影も見えた。
※式根島と神津島も同じ直線状にあって島影は重なっている。
そしてそのまた向こうには、かなり薄いけれども三宅島もぎりぎり見えていた。凄いな、こんなところまで見えるのか。
ちなみに平砂浦から三宅島まではおよそ100kmある。視界が100km先まで確保できるということは気象条件としてはかなりベストに近い。今回の旅程では初日、二日目と天候にはあまり恵まれなかったけれども、最終日にこれだけ好条件がくれば総合的には黒字決算とみてよいだろう。
そんな澄み渡った空のもと、最後に砂浜のみえる一角を眺めてみた。風で動き回る砂丘と黒松の防風林、そして手前には椰子の木いっぱいのアロハな世界(^^;) これらはみな筆者の生活圏ではありえない要素で構成されている。
旅の醍醐味とは要するに、こういう普段の生活では見ることのない風景の中に入り込むことだ。
新しい戦友(とも)を得て最初の遠出で、筆者はここに至った。道の続く限り、どこまででも行けそうな気はするけれど、今回はここまでにしておこう。焦ることはない。これからも、まだまだ旅に出る機会はあるのだから。
■ 帰路
さて帰路は内房側のコースでアクアライン(東京湾)を経由して首都高~東北道へと抜けたのだが、もう十分にダラダラと書きまくった気がするので、詳細は省略する。ただ内房側に入ると海は穏やかで、やはり菜の花が咲いていたことを記しておこう。
途中、アクアラインの洋上SA、うみほたるで夕景をみた。
暮れゆく東京湾は春特有の霞もなく、富士山と横浜の街が美しいコラボを見せていた。菜の花と平砂浦の遠景で満腹だな…と思っていたら、最後にこんなデザートを頂けるとは、風景の神様もなかなか気が利いている。
それは安藤広重の浮世絵のような風景であった。思えば旅の初日、天候が悪かったからといって出発を取りやめていたら、これを見ることもなかったのである。
風景の神様は、気まぐれではあるけれども、諦めない者に時々極上の贈り物をしてくれる。それを受け取れるかどうかは、旅人の意志と判断次第。いずれにしても、踏み出さないことには何も始まらない。
…そんなことを思いながら、筆者はしばし洋上の夕景を眺めてみた。
<完>
■ あとがき
またもや長々~とやたらに書きまくってしまった感がありますが、エクストレイル T32 に乗り換えて初めての遠出の記録ということで載せてみました。3日間という短い期間ではありましたが、改めて見返すとなんとも濃密な体験の連続だったような気がします。
★結構走るよエクストレイル!ヽ(´ー`)ノ
さて今回の隠れた主役、新しき戦友(とも)の X-TRAIL T32 BLACK X-TREMER X チタニウムカーキ(ブラックじゃないぞ!笑)の走り心地についてですが、シートのホールド感がほどよく運転疲れを感じませんでした。足回りも路面に凹凸のあるカーブで非常に安定したグリップをみせてくれて、長距離を走る旅行クルマとしてはなかなかイケてる感じがします。 燃費のほうは街乗りで12km/L前後、高速道路で15km/Lくらいでした。(※2DWにすればもう少し行くのでしょうが、それだと4WDを買った意味がないので基本的にAUTOで走ることにしています ^^;)
今回のコースで是非とも試してみたかったことのひとつに砂上性能の確認があります。これは九十九里編で書いたように 「スタックはしないけれどもタイヤが沈むので爽快な走りにはならない(^^;)」 という結果で、T30の頃とあまり感覚は変わりません。直結四駆モードは必須で、柔らかい砂地ではいくらか空回りしながら匍匐(ほふく)前進するような進み方になります。
ただ実際に砂浜に入ってみると、走りの具合よりも砂がボディに付いてジャリジャリになるのが結構大変で、特にフロントガラス/リアガラスはこれを洗い流そうとして下手にワイパーを動かすとヤスリ掛けのようになるので要注意です(…いやマジで ^^;)。またクルマから降りて歩き回ると、再度乗車したときにフロアマットが砂だらけになります。これだと 「いつもピカピカに磨いておきたい」 派の方は、砂浜は無風晴天のときに "近くに寄るだけ" に留めておいたほうが良さそうかも…(^^;)
しかしナンダかんだと言っても、雪原~未舗装路~一般道~高速道路~砂浜…と、同じセッティングで走り切れてしまうというのは大したものです。「この程度の場所なら大丈夫」 という感覚もある程度つかめたので、次回以降、参考にしながら走っていこうかと思います。
◆意外に残る震災の影響
今回記事に起こしているのは全旅程800kmのうち大洗から九十九里~南房総に至る250kmほどの区間ですが、当初はもっとのんびりとした旅になるかな…と思っていところ、意外に東日本大震災の影響が残っていて、特に九十九里浜で大規模な防災工事が行われていたのには驚かされました。
首都圏内陸部、または西日本在住の方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、実は東北地方の太平洋沿岸には現在長大なる "万里の長城" が築かれつつあります(写真↑は福島県)。これは津波から海浜集落を守る堤防の連続帯で、高いところでは10m以上あります。これが青森、岩手、宮城、福島の沿岸に数百kmにわたって続いており、オリンピック需要と併せて国内の建設産業のリソースを大食いしています。東日本の海岸の景観はこれですっかり様変わりしてしまいました。
それがまさか九十九里浜にまで延長しているとは筆者は予想していませんでしたが、飯岡で高さ7mの津波被害が出たことで千葉県の防災認識は従来とはガラリと変わったようで、飛び砂対策の防風林偏重から "長城" 建設へと舵がきられたようにみえます。県公式HPによれば九十九里浜では堤防高さを6mとして整備工事をするそうで、これが完成すると一般道路から海を見通すことはほぼ不可能になるでしょう。今でも防風林で視界が確保できないところはありますが、最終的にどんな形に落ち着くのか筆者は少々興味をもって眺めています。
一方、九十九里浜より南側の勝浦~鴨川~千倉~野島崎の領域では津波被害がそれほど大きくなかったことから海岸線のサイボーグ化(?)工事は行われておらず、昔ながらの海浜風景がみられます。ただし震災後の自粛ムードの中、観光客が激減した影響は大きかったようで、鴨川で見た菜の花畑や平砂浦のアロハガーデンなどはそれを払拭するための町興しの試みのひとつとなっています。…こうしてみると、震災の影響はまだまだ払拭されたというには程遠いのかもしれません。
◆でもやっぱり花風景は見事
なお花畑に関しては、もう文句のつけようのない風景でした。白浜~千倉周辺の商用栽培エリアのカラフルさ+多様性、そして鴨川のモノカルチャー的ではあるけれど一面に黄色の広がる菜の花畑…皆それぞれに、なかなかいい味を出しています。もっと時間があれば、ローズマリー公園とかマザー牧場などを見てみたかったところです。
こういうスポットを丁寧にひろって見て回るには、クルマで周遊するのが適しています。公共交通機関で南房総に行こうとすると、内房線は千倉港の手前でUターンしてしまうので、ぎりぎり瀬戸浜の海水浴場がカバーできるくらい。その先の爽快な海岸線を堪能するにはやや不足です。やはり、安い軽自動車のレンタカーでいいから、自分の足を確保することをお勧めしたい。
自分の意志で目的地を決め、そこに到達する。ただそれだけのことが、無性に楽しい。文才がないのでなかなかうまく表現できませんが、そんなことを久しぶりに感じたドライブでした。
<おしまい>