2023.11.19 袋田の滝の紅葉(その3)




■ トンネルと未来感と滝の風情と




さてそんな訳で入ってみたトンネルだが……なんだこれは(笑)
昨今の流行なのか、LED照明で七色に光り輝く演出が施されている。さっきまで西行法師と和歌の世界観に浸っていたのに、いきなり未来世界になってしまった。




よくわからないオブジェもたくさんある。 筆者は前衛芸術には造詣がないのでさっぱり分からないのだが、とりあえず今はこういうの時代なのだと理解しておきたい。




先行して歩いている若いお姉さんなどは 「わー綺麗♪」 という反応をしている。 乙女が良いというものは絶対的な正義なので、筆者としては 「ああそうですか」 と言う以外の選択肢はない。 強いて言うなら阿弥陀経の世界観でカラフルに光るものは尊いのだ、と思っておこう。



さてトンネルには何か所か横に抜ける出口がある。ちょこっと覗いてみると、幾分距離はあるものの滝が見える。白糸に喩えられる水の流れは美しい。形式としてはナメ滝とか平滝と呼ばれるもので、岩の表面を薄く広く水が流れ落ちるものだ。




硬い溶岩の岩盤には、古い時代の散策路の痕跡があった。手すりもなにも無い剥き出しの階段で、昔はこんなところを踏みながら滝の正面まで行ったのだな。




下流側に目を転じると、崩れた溶岩隗がゴロゴロしている。わずか300mほど下流側ではほとんど石ころのない平坦な川底だったのに、ずいぶんと極端に変わるものだ。

これが下流側まで流れていかないのは、このサイズの岩塊を押し流すほどの水量がないという一言に尽きる。ナメ滝は少ない水量でも薄く幅広く水が落ちるので省エネで迫力あるインパクトが得られるのだが、津波のような 「どすこいパワー」 は持っていない。だから崩れ落ちた崖面の溶岩隗は流されずにそこに留まり、下流側の商店街付近以降は平坦な河床になっているわけだ。




溶岩の表面はこんな感じで、一見すると礫岩のようにみえる。海底でマグマが噴き出すとすぐに表面だけ冷えて礫状になり、しかし芯は熱を帯びているので海底に積もると溶着して硬い岩盤を形成するらしい。これが南北10km以上(資料によっては30kmとするものがある)に渡って分布している。地質マニアの人にとってはきっと面白いにちがいない。




その溶岩層の厚さは200m以上ある。崖面をみると岩質は上から下までほぼ均一で、何層にもわたってちまちまと重なりました……という感じではない。いちどに噴出したのだとすれば、その自然のパワーの凄まじさは如何ほどであっただろう。




■ 観瀑台へ




さてふたたびトンネルに戻り、エレベーターで観瀑台に登ってみることにした。 これが整備されたのはは2008年で、筆者はその後何度か来ている筈なのだがまだ登ったことが無かった。




エレベータで50mほど上ると、さらに3階建ての展望台がある。目指すのはもちろん最上階である。




おお、これは素晴らしい。 滝上の川面まで見える。 紅葉もちょうどいい感じで、山姫の錦は真っ盛りのようだ。特に3段目の滝壺が見えるのがいい。




1段目と2段目をアップで撮ってみた。滝下からではこの部分はよく見えない。この景観を得られたのは2008年以降にここを訪れた者のみだ。もちろん西行法師も見ることは叶わなかっただろう。近代土木の恩恵には素直に感謝しなくてはいけないな。




観瀑台には滝形成までのメカニズムの解説もあった。水中火山岩なんて用語があるのは初めて知ったな。実はこのあたりの研究は1980年代後半以降に進展していて、案外新しいのである。学者の中でも堆積岩を研究するグループと火山岩を研究するグループは縄張りが別で、こういう境界領域の研究は少なかったのだという。へえ。




さて滝上に目を向けると、紅葉はなかなかいい感じだった。滝の近傍は水の飛沫が舞って局所的に冷え込みやすく、ピークアウトしていたら困るなと思っていたが、まあ色づきとしては悪くない。 袋田の滝の紅葉を見るという本日のミッションは、ひとまず成功と思っておきたい。

<つづく>