写真紀行のすゝめ:撮り方とか


車窓写真の小ワザ:窓の汚れを被写界深度で乗り越える


今回は車窓写真のノウハウのひとつ、被写界深度の応用について書いてみようと思います。窓の汚れを乗り越えていかに綺麗な写真を撮るかという試みです。



■ 公共交通機関の窓は汚い


そんな訳で、さっそくですがお見苦しい写真を一枚(^^;)



これは国内の某航空会社の飛行機から撮った東京湾の全景です。……が、なにやら縦縞模様のようなものがたくさん写っていますね。これは窓ガラスの外側についた汚れです。航空機の機体の清掃はブラシやスポンジでゴシゴシする訳ではなく、単に洗剤をぶっかけて水で流すだけ…という恐ろしくぞんざいな手法なので、こういう液だれ状の跡が残って固着しやすいのです。うーむ…何たる哉。

まあ航空機に限らず、こういう事例は電車やバスでも結構な頻度で遭遇します。いまどきの公共交通機関はあまり儲かる産業ではないようで、機材の整備も最低限に済ませ、清掃なんて二の次(…とは業者さんは絶対に言わないでしょうけれど)のような感があって、旅人の視点でみるとちょっと残念なことが多いです。なかでも航空機の窓の外側は、万年落第点といって良いでしょう。

乗客は否応なしにこの窓を通して景色を見ることになります。幸い、人間の脳には "見たくないものは認識しない" 機能があって、多少の汚れがあってもそれを意識の外に追いやって景色を堪能することができます。しかしカメラは汚れも含めた "ありのまま" の映像を記録してしまうので、後から見直して 「こんな筈では…」 ということになりがちです。

…さて、これに対処するにはどうすればよいでしょう。



 

■ 邪魔なものはピンボケにしてしまえ!


ということで、ここでは窓に付着した汚れをピンボケにして消してしまう方法をご紹介します。といっても難しい話ではなく、被写界深度をコントロールして手前にある窓の汚れをアウトオブフォーカスにしてしまえばよいのです。簡単なイメージを右図に示します。

被写界深度をコントロールするには絞り値(F値)を変えるか、ズームレンズならズーム倍率を変えることになります。絞りは解放側にすれば被写界深度が狭くなり、ズームの場合はズーム倍率を高くすれば被写界深度が狭くなります。ズームして絞り解放にすれば最強の組み合わせになります。

この手法はもともと 「背景をぼかす」 ために使われるものですが、背景がボケているときには実は必ず手前側にもボケ領域が出来ています。車窓写真ではピントは通常ほぼ無限遠に近いところにくるので、ボケるのは主に手前側。窓ガラスの汚れや傷などをこのボケ領域にもってくれば、お目当ての景色だけを綺麗に写すことができます。

なお光彩絞りのない安価なコンデジでは絞るという動作はできません。しかし望遠レンズでは一般に被写界深度が浅くなる性質を利用して、遠景をズームすることで手前側をある程度ボケ気味にできます。よって、一眼レフほどではありませんが類似の効果は得られます。




一例を挙げてみましょう。これ(↑)はコンデジによるものですが、ちょうど逆光の条件で窓ガラス表面の無数のゴミやキズが白く浮かび上がって、広角側では綺麗な絵は望めない状況でした。しかしズームして遠景の一部を切り取るような撮り方をすれば、そこそこ見られる絵になります。こういう撮り方をすればよいわけです。

※ただしゴミの像はピンボケになっているだけなので、マジックで書きなぐったよう強い汚れとか、補強のためにワイヤー網の入ったガラスでは対処しきれなくなる場合があります(^^;)



 

 ■ 広角が使えない分は、画角なりの構図で工夫しよう


さてそうなると、ズームばかりでは不便だという声が聞こえてきそうですが、そこは構図の工夫で乗り切っていただくしかありません(^^;)  窓の汚れ具合や光の加減によってどの程度で汚れが気にならなくなるかは千差万別です。絞り解放だけで間に合うのであれば構図の自由度は増しますし、ズーム併用が必要ならその画角なりに撮ればよし。不平不満をいうよりも、与えられた条件のなかで最大限何ができるかを工夫したほうが幸せ係数は高くなります。




ただ航空写真に限っていえば、一般的な旅客機の飛行高度はざっくりと1万メートル(海抜10km)ほどあり、地上のなにかを撮ろうとすると、いくらかズームしないと遠すぎる距離感です。そういう意味では、意図せずに自然にズーム気味で撮っていて、結果的にゴミ問題をクリアしているカメラマン氏というのは意外に多いのかもしれません。もし過去の旅行写真で窓の汚れの写っているものと写っていないものがあったら、どのような撮り方をしたのか振り返ってみると面白いかもしれませんね(^^;)




なお窓の汚れの写りこみは、空や海など同系色が一様に分布している場合に目立ちます。海や空の美しいビーチリゾートに出かけるときには、それを少しだけ意識して、絞り値とズーム倍率に気を使っていただければと思います。せっかく出かけるのですから、綺麗な思い出を写真に残しましょう。




…ということで、なんだか航空写真ばかり並べてしまったので(笑)、最後に鉄道からの景色もいくらか載せて締めくくりたいと思います。鉄道の車窓でも、撮り方の基本は一緒です。絞りは解放、そしてズーム気味に。航空機との違いは、車内が比較的明るいので窓の写りこみが多いということでしょうか。これは雑誌や手をかざすなどして適当に防ぎましょう(^^;)

そんな訳で、今回はこの辺までといたします♪