写真紀行のすゝめ:お出かけとか
順光、逆光の時間帯を追う
今回は順光、逆光について書いてみます。平地の小風景、近景ではカメラマンがちょこまかと動き回ることで割と自由な光線具合の選択が出来ますが、相手が巨大すぎるとそういう訳にもいかなくなります。具体的には、山とか海です。そんな訳で、今回は主に撮影旅行のルーティングと時間帯という視点でつぶやいてみます。
山は順光が王道
山を綺麗に撮ろうと思ったら順光で撮るのが基本です。 「いや違う、逆光を制することこそが真の写真道なのだ…!」 という方が時々いらっしゃいますが、無視して結構です。そういう方はヌル道の遥か先を極めた本物の達人か、さもなくば只の変質者であり、いずれにしても 「失敗しない程度に綺麗な風景を撮りたい」 大多数の一般人とは住んでいる世界が違います(…なんだか今回は強気だな ^^;)。
さて順光と逆光でどれほど山の描写が変わるかというと、このくらい↑変化します。これは富士山の山頂部分を山中湖 (富士山から見て東側) の同じ位置からから朝と夕方に撮ってみたものですが、逆光の場合は山がほとんどシルエットのみになって細かいディティールが潰れてしまっています。シルエットのみの写真にも趣があって決して悪い訳ではありませんが、たとえば観光ポスターや旅行雑誌の表紙に使うとしたらどちらが良いか?…と問われれば、おそらく大多数の方が順光の写真を選ぶのではないかと思います。
こちらは筆者の地元の山=茶臼岳です。この山は噴煙をバックにした紅葉の鮮やかさで知られていて、毎年10月初旬になると多くの観光客が訪れ、写真を撮っています。…が、このアングルは実は山の西側になっていて、午前中には日が差さないという "時間制約のある風景" の典型なのですね。
もう少しロングの地形図で位置関係を見てみます。那須五峰と呼ばれる那須連山の主要五座の山々は南北に連なっていて、主峰:茶臼岳(1915m)の火口は西側斜面に開いています。紅葉の撮影地として定番の姥ヶ平はここから斜面を下った標高1600m付近のなだらかな小平地です。しかしここから火口方面を望んで絵になる風景を撮ろうとすると、午前中はちょうど逆光気味になってしまうのです。
…で、ここで悩ましい問題が生じます。紅葉シーズンは道路が非常に混雑して、駐車場の競争率も厳しい状況になります。そこで夜明け前に峠の茶屋駐車場(クルマで行ける最高地点)に登ってしまう訳ですが、姥ヶ平の見頃の時間帯は正午過ぎですから、あまり早く登山道に入ってストレートに姥ヶ平を目指してもいい景色が見られないのです。そこでルーティング、または時間つぶしを考えることになるのです。
図説:那須の秋の一日
そんな訳で、この茶臼岳を例に1日の光線状態をシミュレートしてみます。筆者のよく使うカシミール3Dで今年(2012年)の推定紅葉開始日和 10/05 の状況を見てみると、日の出は 05:30 で、日の入は 17:26 となっています。ここ↑では 07:00 の状況を見てみましょう。地平線から日は昇っていますが、姥ヶ平を含む山の西側(画面左側)はまだ日陰です。
一方、やはり紅葉の名所である朝日岳の南側斜面には日が当たっています。それに次ぐ名所である南月山の東側にも光が当たっています。こういうところは早朝からでも鮮やかな紅葉を見ることが出来る筈で、こういうところをチェックしながら移動していくのがおいしい行楽コースといえそうです。
少し間を置いて 9:00 頃の状況↑を見てみると、だいぶ日は高くなって姥ヶ平に日は差してきていますが、茶臼岳方面を見ると山が逆光になって陰の部分しか見えていないことが分かります。
11:00 頃になると、太陽は南中に近くなってきて茶臼岳の西側斜面にも日が差し始めていることがわかります。そろそろ撮影しても支障のなさそうな時間帯になってきます。
正午を過ぎて 13:00 頃になると、西側斜面全体に日が差して順光に近い光線状態になります。この頃が撮影にはベストな状態といえます。
さらに時間が経過して 15:00 頃の状態です。順光条件ではありますが日が落ちてきてだんだん暗くなってきました。実際にはこの頃になると山はいわゆる 「ガスが出た」 状態になって遠景が霞んできます。順光撮影のベストな時間帯はそろそろ終わりで、山はだんだんと夕景に移り変わっていきます。
…が、もしロープウェーで降りるつもりなら、最終便は16:20頃なのでそろそろ引き返さないと下界に戻れなくなります。徒歩で駐車場に降りるとしてもたっぷり2時間以上かかるので、日没=17:26 を考慮するとそろそろ行動限界点といえるでしょう。(野営するつもりなら別ですが ^^;)
さらに時間が経過して 17:00 になると、もう夕闇迫る時間帯です。ちなみに気象条件でいう日没とは地上にまったく凹凸がない場合に地平線に夕日が沈む時刻で、山岳地ではその前に山の陰に日が隠れてしまいます。上の図で影になっているところに居る人にとっては、既に 「日が沈んだ」 状態であることに注意しましょう。山の西側から東側に回りこむ場合、まだ日が当たっているエリアからこの影の部分に入り込むルートになり急激に暗くなったように感じます。
なおこの日(2012/10/05)は、月齢が19.0、月の出は 20:08 です。つまり日没後は午後8時過ぎまで月明かりは無く、本当の闇の世界になります。ライトを持っていないと日没後に登山道を降りるのはかなり危険になりますから注意してくださいね。
…と、なんだか話が安全確保の方向に脱線気味になりましたが、時刻によって光線状況がまったく変わることはご理解頂けたかと思います。茶臼岳周辺は割りと単純なルートなのでそれほど選択肢に悩むことは無い筈ですが、時間帯を読みながら 「○○時には△△あたりを通ると良さそうだ」 というのは何となく見えてくると思います。
そんな訳で、秋の行楽で 「なるべく長時間、那須の紅葉を眺めながら歩く」 というルーティング例を作って↑みました。健脚の方ならロープウェーは使わずに明礬沢沿いの登山道を朝日岳を眺めながら早朝から上り、ゆっくり、まったりと火口(無間地獄)前を横切って眼下の姥ヶ平の遠景を楽しみ、正午頃に姥ヶ平に降りて茶臼岳を見上げれば、おおよそ良い光線状況を追いかけて行けます。ストレートにスタスタ歩くと午前9時頃には姥ヶ平に着いてしまうので、状況を見ながら朝日岳山頂を往復するとか、日の出平に寄り道すると良いのではないでしょうか。
海も順光が王道
さて海を撮影する場合にも、時間帯とルーティグが重要になります。
ここでは事例として、沖縄の離島である渡嘉敷島を挙げてみましょう。ここはダイビングスポットとして有名なところで、地形はご覧↑の通り殆どが山岳で占められています。
撮影ポイント=美しいビーチは島の西側に集中していて、代表的な場所が渡嘉志久です。ここは島で唯一の幹線道路 r186 が山の上を通っていて、遠浅のビーチを見下ろすことが出来ます。
実際に見下ろすと、こんな風景が見えます。本土ではまずお目にかかれない海の色といいますか、初めて見たときには筆者もちょっとばかり感動してしまいましたヽ(´ー`)ノ。
ところでこれは順光条件だから出ている色で、時間帯を間違えるとこうは写りません。一般に青い海を綺麗に撮ろうとすると、満潮の時間帯に高い場所から順光条件で見下ろすのがベストだと言われています。
今回の事例では実はあまり潮位が良くなく、到着したときには既に引き潮気味になっていたのですが、少なくとも光線具合と見下ろしロケーションは守れたのでこの色が得られました。満潮であれば手前側の砂地の部分がもっと鮮やかなコバルトブルー気味になった筈です。…まあ贅沢を言い出したらキリがありませんけれどね(^^;)
ちなみに時間帯が合わず逆光条件になってしまうと、海の表面反射が強くなってせっかくの青さが無くなってしまいます。太陽が真正面ではなく左右どちらかに寄っていればPLフィルターで反射光を軽減することも出来るのですが、それでも限界があります。だからこそ、地形と撮影位置、時間帯の検討は重要なのです。
ところで実際にこの島を訪れようとすると、もうひとつ ”船便の時刻表” の制約があります。
那覇から日帰りで往復できる手軽さがこの島の売りのひとつなのですが、高速船(マリンライナーとかしき)の便は観光のオンシーズンでも那覇の泊港発 09:00、13:00、16:30 の3便しかありません。これだと光線状態の良い午前中に到着するには午前09:00発の便に乗るしかありません。渡嘉敷港への入港予定時刻は午前 09:35 で、現地での足の確保=レンタカー調達などをしているとあっという間に10時を過ぎてしまいます。
南北に長い島で撮影スポットが西側に集中しているということは、ビーチにいる撮影者は殆ど西側を向いてアングルを決めており、順光条件が得られるのは午前中の早いうちということです。正午が近づくともうほとんど横(=南)から太陽の光を受ける格好になり、午後になるともう逆光気味で撮影アングルの自由度はだんだん失われてきます。
…こうしてみると、実際に撮影に使える "おいしい時間帯" というのが結構限られてくることが分かると思います。これは船便に限った話ではなく、飛行機や鉄道で現地入りする場合にも同じことがいえます。
不思議なことに、旅行会社はこういう 「風景と光線具合の時間帯都合」 を考慮したツアー企画というのは立ててくれません。面白い切り口だと思うのですが 、需要がないんでしょうかね。
だから結局、自分で考えるしかないのですよ…(´・ω・`)
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