2016.02.16 常陸~房総周遊記:野島崎編(その2)
■ 千倉海岸
野島崎からR410を東進すると、やがて旧千倉町の領域に至る。現在では市町村合併で巨大な南房総市が誕生しており、遠方から来た筆者にはピンと来ないのだが、かつてこの市域は七つの町(=富浦町、富山町、三芳村、白浜町、千倉町、丸山町、和田町)に分かれていた。
千倉は南房総市を構成する旧自治体の中では最大の人口をもっていた。その産業構造は一に農業、二に漁業で、中でも温暖な気候を反映した花卉栽培が最大の収入源である。リゾートホテルの並んでいる白浜に比べると一次産業の割合が高く、素朴ないい感じの風景がみられる。
房総フラワーラインは旧千倉町の領域では海岸沿いを通る。千倉海岸は太平洋に面して温暖で波が高く、このあたりは岩礁なので泳いでいる人はいないのだが、もう少し北に寄って砂浜の領域に入るとサーフィンが盛んであるらしい。海岸沿いには電線がなく、開放感がすばらしい。
ちょっとクルマを停めて海岸に出てみた。青い海に白い波。絵にかいたような景色だな。
沿道には花卉農家が点在する。白浜(野島崎)方面から千倉を目指すと、乙浜漁港を過ぎたあたりで平地がなくなり、狭隘な崖部を通ってやがて白間の平野部に入る。千倉の花畑はこのあたりからぼちぼちと増えていく。
■ 道の駅:ちくら潮風王国
さて筆者の本日の目標地点その1は 「道の駅:ちくら潮風王国」 である。ここは千田港に隣接する海産物センターとひろびろとした芝生のスペースのあるところで、道を挟んで花畑が広がっている。遠方から来た観光客がお手軽に海の幸+山の幸を堪能しようと思ったら、まずここに来るのが手っ取り早い。
駐車場にクルマを停めると、その先には奥行150mほどもある芝生が広がっていた。面積はおよそ2000坪だという。 おお、ひろびろ~ ヽ(´ー`)ノ
それにしても南房総の公共施設というのは芝生の使い方が贅沢だ。セコい商売人なら 「客をとにかく大量に入場させろ」 とばかりに敷地を全部駐車場にしてしまうであろうに、その真逆を行っている。このデザインコンセプトを打ち出した人はエライ。
敷地内には漁船の実物大模型がオブジェとして展示されていた。ホンモノかと思ったらレプリカだそうで、昭和40年代にサンマやサバをとっていた70トンクラスの典型的な船をモデルにしている。これが100隻ほどの船団を組んで出漁したらさぞや豪快だろうな。
※船はブリッジまで入ることができる。
さてこちらがメイン施設の物産館。しかしまずはここではなく海に下りてみよう。
おおこちらも広々~ ヽ(´ー`)ノ
波で浸食された磯は洗濯板(もしかして最近は死語?^^;)のようだった。千倉も白浜(野島崎)と同様に海底が隆起してできた段丘の上に発達した町だ。薄い表土をはぎ取ればこんな感じの岩盤が顔を出す。
おもしろいことに岩礁が浸食されるのは海面より上に出た部分だけのようだ。地質学ではこういう地形を波食棚という。日射の強い海岸ではちょうど波の当たる高さで岩石の風化が進みやすいという特性があり、これが満潮位の水準で削られて平らな地形ができる。これが地震などで隆起すると平坦な岩石平野となるわけだ。
海水は、暖かい…とまではいかないが、冷たくはない。山国の渓流の身を切るような冷たさを知る身としては、とても2月の水温とは信じがたいのだが、これもまた黒潮の恩恵なのだろう。
それにしてもこの絵にかいたような平和で穏やかすぎる風景はいったい何なのか…。
素晴らしい。…素晴らし過ぎるヽ(´ー`)ノ
しばらく、何も考えずにぼーーーーっと海を眺めてみた。こんなところに住んだら、人間は心身ともに穏やかになれるのだろうか。灰色の人生を天日干しにしながら少しばかり哲学的なことを考えてみようかと思ったが、もちろん答えなど出るはずもなかった。だいたい干物になるまでここに居るのはさすがにムリだ(そっちかよ ^^;)。
■ さかなさかなさかな~♪
さて海風で心身をリフレッシュしたら、海産物を眺めてみることにしよう。ここは漁港と一体化した施設なので水揚げされたばかりの新鮮な魚介類が見られる。
見られる…とは書いてみたものの、ここは物産館なので並んでいるのはすべて売り物である。建物内部はこんな感じで、大きな生簀(いけす)に鮮魚コーナー、さらに土産物店+飲食コーナーがセットになっている。さすがに漁港直結だけあって、並んでいる魚介類の鮮度は内陸部のスーパーとは比べ物にならない。
まずはハマグリ。これで4~5年ものらしい。ハマグリといえば桑名が有名だが、もちろん千葉県でも捕れる。
こちらはサザエにイセエビ。サザエはカタツムリのようにケースによじ登っている奴がいた(^^;)
うお、クジラも売っているのか…!
これは丸干しサンマ。銀色が美しい。食べ物というより飾りものみたいだ。
こちらはサバ。ウロコの光沢が虹色に輝いている。捕れたばかりだとこんな色なんだな。
これは高級魚の金目鯛。今がちょうど旬らしい。生物学的には鯛とは違う種類の系統らしいのだが細かいことを言っちゃいけない(笑) 赤色の乗りがすこぶる鮮やかだ。
ちなみにどのへんが "金目" なのかというと、フラッシュを炊いてみれば一目瞭然である。陽光やライトの光でも輝いてみえるらしい。深海に棲む魚なので目の内側に反射膜があってこれで光を増幅しているのだとか。…へえ。
■ 余話として:高家神社と包丁式の話
ところで土産物コーナーをのぞいていたところ、どこかで見たような図柄の暖簾を見かけた。このちかくに高家神社というのがあり、包丁式の奉納があるらしい。筆者は思わず初日のアンコウを思い出してしまった。
この神社の祭神は磐鹿六雁命(いわかむつかりのみこと)といい日本書紀では景行天皇の側近として描かれている。景行天皇が安房国に行幸の際、鰹(かつお)と蛤(はまぐり)を調理して大いに賞賛されたとの故事から料理の神として祀られるようになった。この神は別名:高倍(たかべ:高家とも)神とも呼ばれ、料理業界では守護神として尊重されているらしい。
こうしてみると安房から常陸まで黒潮の末端近くの国々は、なにやら共通のバックボーンをもっていることがみえてくる。さきの高家神社の故事ににしても、景行天皇がなぜ安房までやってきたかといえば "日本武尊の東国平定を偲んで" ということで、狙った訳ではないけれど初日の鹿島神宮とつながってくる。
今回は雪国探訪の予定を急遽変更して南進コースにしたこともあり、あまり深く考えずに旅している訳だけれども、こうして点と点がむすばれて線になっていく感覚というのは実に楽しい。こういうところがそぞろ歩きの面白いところで、お仕着せのパッケージツアーでは味わうことのできない感覚だな(^^;)
※…などと言いつつも、わずか5km先にあるこの神社をスルーして筆者は花畑を優先させてしまったのだが、まあそこはそれ(^^;)
<つづく>