写真紀行のすゝめ:ハードとか


デジ一眼の悩ましいゴミ問題


今回はデジカメ特有のゴミ問題について書いてみます。シャッター近傍のメカ部分からの発塵や、レンズを交換する際に外部から入り込んだゴミが撮像素子の表面に付着して 「影」 として写りこむトラブルです。




フィルムカメラでは問題にならなかったゴミ


一眼レフカメラには、微細なゴミを出す(=発塵)可能性のある機構としてシャッターユニットや跳ね上げミラーがあります。またレンズを交換する際に、シャッター近傍に外部のゴミが混入する場合もあります。こういった経路でカメラ内部に溜まったゴミが撮像素子やフィルム表面に付着すると、影となって写り込みます。これは昔からあるトラブルでした。

現在市場に出回っている一眼レフカメラの構造は、フィルムカメラでもデジカメでもほとんど一緒です。かつてフィルム面があった部分がCCDやCMOSなどの撮像素子に置き換わっただけです。……なのに、フィルムカメラではゴミはデジカメほど深刻な問題としては捉えられていませんでした。なぜでしょう。

それはフィルムカメラでは、たとえゴミが入り込んでもフィルムを巻き送りすることで実質的にゴミを取り除くことが出来、ある一コマがダメになっても次のコマに殆ど影響しなかったからです。しかしデジカメでは撮像素子は固定したままで、ゴミは溜まる一方です。そして一度撮像素子に付着したゴミは、排除しないかぎりすべての画像の同じ場所に写り続けるのです。これはかなり深刻です。

このゴミの混入を嫌って、デジ一眼のユーザーの中にはレンズの交換を極力行わないようにしている人がいます。一部のお金に余裕のある人は "このボディはこのレンズ専用" と決めて、付けっぱなしのセットにしている場合もあります。趣味の世界には凝りだすといくらでもお金をかける人がいるものですが、まあそれだけ悩ましいことなのでしょう。




ゴミはどんなふうに写る?


ナニはともあれ、実際のゴミの映像を見てみましょう。ゴミは背景が快晴の空とか、ボカした背景とか、比較的均一の色が広がっているところで目立ちます。逆に街中で撮ったスナップや樹木の多い背景など、いろいろなものがゴチャゴチャ写っているところでは目立ちません。



さてこれ↑は Nikon D70S で撮った快晴の空です。見事にゴミが写りこんで写真が台無しになっています。デジタルデータなので画像処理ソフトでゴミの部分を潰してしまえば救えないことはないのですが、作業の労力を考えると 「やってられねーよぅ!」 というのが正直なところでしょう。

ところで撮像面=ピント面の筈なのにどうしてゴミの像がボケているのか不思議に思う方もいるかも知れません。これはセンサの前面にローパスフィルタの層があって、ゴミはそこに付着するので若干ピンボケになるのです。レンズの光学系はピントの合っている面とそうでない区間があり、ピント面(共役面)以外の部分にゴミや傷が存在しても結像せず、画像には写りません。中古のレンズなどで内部にゴミが入っていても実際に使用してみると写りにあまり遜色がないのはそのような理屈によります。

では光路上の危険な場所はどこかというと、幾何光学上は絞り面と撮像素子表面ということになります。絞りの位置に普通はレンズ面はありませんから、事実上、撮像素子の表面さえ綺麗になっていればゴミは写り込まないということになります(※)。

※よほど大きなゴミやキズ、曇り、あるいはカビの増殖がある場合は別です




次に示す事例↑は Nikon D300 での付着ゴミです。薄く丸い影として写り込んでいるのが見えますが、D70Sと比べるとずいぶん症状が軽くなっています。



等倍画像(縮小なし)でゴミの部分↑を抜き出してみました。D300のゴミが見えないぞ、という方はモニターから2mくらい離れて心眼で "ムムム…!!" と見つめると丸い影が見えてくるはずです (つまりそれだけコントラストが弱い、ということですが)。これは、世代の新しい D300 ではゴミ対策を強化してローパスフィルタをセンサ面から離しているので、ゴミの像がピンボケ気味になっているものと思われます。最近の機種ではそれなりに対策は進んでいる訳ですね。

ゴミの像は、絞りを絞るほど明瞭に写り込みます。普段F5~F8くらいで街撮りしていたカメラで雲一つない晴天の景色をF16くらいまで絞り込んで撮ると 「あれ?」 …と気づいたりします。




自動クリーニング機構は効果があるのか


さてゴミ問題はカメラメーカーも認識しており、最近の機種ではそれなりに対策も進んでいます。自動クリーニング機構を備えた機種も増えてきました。ただしクリーニングと言ってもワイパーのようなものが飛び出してきてゴシゴシ拭き上げてくれる訳ではなく、超音波で振動させてゴミを振るい落とすというものです。

振動くらいで本当にゴミが落ちるのかというと、もちろんそれだけでは不十分で、カメラ内部の静電気対策とセットになっています。実は光学ガラスは静電気を帯びやすい性質があり、もともとゴミを吸着しやすいので、これを除電して吸着力を落としてから振動をかけるのです。これには一定の効果があるようです。

ただし粘着性のある花粉などがローパスフィルタに付着した場合、振動だけで落ちるかどうかはなんとも言えません。クリーニング動作を何度か試みてダメな場合は、物理的に表面を拭き上げる手動クリーニングが必要になります。この場合、腕に覚えがあるなら自前(もちろん自己責任)で清掃しても良いでしょうが、自信がなければ素直に修理サービスに出したほうが賢明です。




自前でのクリーニングについて


そんな訳で、修理サービスに出した場合はもう書くことがありませんので、ここでは自前でクリーニングする方法について少々書いてみましょう。

ただし筆者は仕事柄レンズ清掃には慣れているので自前で拭いてしまいますが、本来はクリーンルームで行うべき作業であり、自信のない人はやはり素直に修理サービスに出したほうが得策です。また一見ゴミのように見えても実はシャッターから飛散したグリス飛沫でした…という場合もあり、これは保証期間内であれば無償で清掃してもらえる筈ですのでやはりメーカーに問い合わせたほうが良いと思います。


■作業方法(※要自己責任)


…ということでで以下に清掃方法(貧乏人仕様)を書いてみます。ただしくどいようですがそれなりに職人技の世界なので、気軽にお勧めしている訳ではありません。真似をする人は自己責任でお願いします。


【環境】

まず作業環境ですが、窓は完全に閉めきって、床から50~60cm以上の高さのある清浄な机の上で作業します。一見、綺麗なように見えても部屋の中には大量の微細なゴミが舞っています。床面近くにはこのゴミが煙のようによどんでいて、人が歩いただけ巻き上がりますので、作業中は家族であっても部屋に入れてはいけません。小さいお子さんから抗議されたら鶴の恩返しの話でも聞かせて納得してもらいましょう。

簡単に作業環境の清浄度を確認するには、もしその部屋にPCが置いてあるならキーボードに溜まったホコリを見るのが一番です。そこに溜まっているものが、キーボードの高さまで舞い上がって堆積したゴミの実態です。大抵の場合、溜まっているのは綿埃(わたぼこり)だと思いますが、一般家庭ではこれは衣服から脱落した繊維質と人間の皮膚から脱落した角質細胞(…の干からびたもの)の混合物です。日頃大きく開けっ放しで風を入れている部屋では、これに加えて土埃や花粉などが混ざってカオスな状態になっています。これが、日常的に部屋の中を舞っている訳で、人がいる時間帯に舞い上がり、人のいない(または就寝中の)時間帯にゆっくりと舞い降りてきて堆積していくのです。

ちなみに人の角質細胞は体細胞の中でも大きく、1個の直径が30~50ミクロンほどあります。最近の撮像素子の1ドットは直径2ミクロンを切るくらいまで微細化していますので、角質=綿埃の一粒が落下しただけで数十個のセンサ粒が覆い隠されてしまう勘定になります。実際にはローパスフィルタがあるためにでピンボケ気味に影がおちるので、さらに影響の及ぶ範囲は大きくなります。決して脅かす訳ではありませんが、こういうものを相手にして作業をするのだ、ということは理解しておいて欲しいと思います。ちなみに明るいライトを当てて肉眼で見えるゴミのサイズは30~50ミクロンです。

ではそんな大層なものを相手にするのにどうするのよ、という話になるのですが、一般家庭をクリーンルーム化する訳にもいきませんので(笑)、堆積したホコリを巻き上げないようできる限り注意するという方法論になります。さきほど机の高さを50~60cm以上と書いたのは、人が歩行した時に巻き上がるゴミ煙の高さがそのくらいだからで、一般的な学習机(高さ70cm前後)くらいのテーブルを用意すればこれはクリアできます。窓を閉めて外気の流入を遮断し、エアコンや扇風機を停めて1時間も静かにしていれば花粉や角質、繊維くずなどの数十ミクロン以上の粒子は床面まで落ちてくるので、クラシックでも聞きながらゆっくり待ち、落ち着いて静かに作業をすれば大丈夫です。なお用心のため手や顔はよく洗っておきましょう。


【用意するもの】



クリーニングには専用のキットもあるのですが、お金をかければ良いという訳でもないので筆者は最低限必要なものとしてシルボン紙とアルコールを用意しています。シルボン紙はそのへんのホームセンターではちょっと手に入りくいかもしれません。通販では割と豊富に出回っていて、一束\500くらいで入手できます。

アルコールは光学系清掃には通常特級メタノールを使いますが、薬局で簡単に入手できる無水エタノール(500mlで\1000前後)でも代用できます。これ以外の有機溶剤は樹脂材を溶かしてしまったり光学系のコートを痛めてしまうので使えません。また同じエタノールでも消毒用のものは純度が低く水分を20%前後含んでいるので電気系パーツの清掃には不向きです(…というより危ないので使っちゃダメです)。

これ以外に、清掃用のクリーニング棒(割り箸で可)、十分な照明が必要です。またアルコールの入れ物としてハンドラップがあると楽に作業できますが、使うアルコールの量はせいぜい数ml程度なので、容器の蓋にちょこっと小分けしてチョン、チョン、でも作業は可能です。この場合、使ったぶんのアルコールは作業後は捨てて、容器には戻さないようにします。1回数十円程度のアルコールをケチって戻していると、だんだん瓶の中が汚れてきて、ひどい場合は拭き上げた際にウォーターマーク状の乾燥痕が残るようになってしまいます。こうなったら瓶ごと買い直すしかありません。ケチケチしないことです。


【拭き方】



クリーニング棒は、筆者の場合ケバのあまり飛散しない目の細かい割り箸を使っています。先端をマイナスドライバー状にカッターで削って、全体をアルコール+シルボン紙で軽く拭き、割り箸の製材時に発生したであろう細かい切り屑を取っておきます。材質的にはこの割り箸の硬さというのが実に絶妙で、芯材としての強さとレンズ(というか撮像素子表面のローパスフィルタ)を傷つけない柔軟性がうまい具合にミックスしています。…そういえば、一昔前は似たような素材で柳箸なんかがプロの現場で実際にレンズ清掃に使われていましたね(本当ですよ)。

さてそこにシルボン紙を巻きつけていきます。まずはシルボン紙を上記写真↑①、②のように折り、割り箸の削り出し面を差し込みます。これをくるくると巻いていきます。なお写真では撮影の都合上(カメラを右手で持っているので)テーブルの上に置いていますが、実作業ではシルボン紙のベタ置きはしません。テーブル上のゴミを拾ってしまう可能性があるので手で持ったまま巻いていきます。




巻き方は上記写真の③の要領で少々きつめに巻いていきます。完成すると④のような体裁になります。この状態で先端をアルコールで軽く湿らせてクリーニングを始めます。この際、滴るほどたっぷりと含ませてはダメで、多く含ませすぎた場合は手首を軽く振って余分なアルコールは飛ばしてから拭き始めます。




カメラの方は、レンズを外し、ミラーアップの状態にして撮像素子を露出させます。この状態で、そろり、そろり、と拭いていきます。クリーニング棒は何度も往復させてはダメで、1方向にゆっくりと撫でて、シルボン紙はケチケチしないでどんどん交換していきます。

一般にレンズの清掃は中心から周辺に向かって渦を巻くように拭けと言われるのですが、デジカメの撮像素子は形状、大きさから言ってその原則ではかなり拭きづらいパーツです。実際にやってみると箒で掃除するような要領で1方向にゴミを掃き寄せていって、最後にその寄ったゴミを90度方向を変えてサッと拭き取るのが効率がよさそうに思えます。(くどいようですがプロに聞くと公式には円を描けと言われます)

なお撮像素子の周辺で汚れている部分があったら一緒に拭いておきます。特にレンズ端子の接点部などにゴミがたまっていることが多く、ここが汚れているとせっかく清掃しても次のレンズ交換時にまたゴミがパラパラと落ちてくるかもしれません。マウント周辺は意外に汚れているものなので、せっかく清掃するなら一緒に拭いておきましょう。


【清掃効果の確認】

拭きあがりの出来栄えの確認は、真っ白な被写体を撮って行います。一番簡単なのがPCの液晶モニタに真っ白な画像をいっぱいに表示して撮影 (ピントは外したほうが見やすい) することで、絞りはできるだけ絞ったほうがゴミの見え方は鋭敏になります。この画像でゴミが見えたら再度拭き直す…ということを、気の済むまで繰り返します。途中でイヤになったらそこが自分の腕前の限界なので(^^;)、作業が雑になってローパスフィルタに引っ掻き傷を作る前に、素直にメーカーにクリーニング依頼をするべきでしょう。(といっても通常、一回で完璧に拭きあがることはありません。4~5回くらい繰り返すのは普通のことです)

なお清掃がうまくいかない場合、その要因のひとつに照明の不足が挙げられます。十分な照明があれば肉眼でも直径30~50ミクロンくらいまでのゴミは識別ができます(老眼や極度の近視でなければ)。つまり角質細胞単体やスギ花粉が見えるのです。しかしそれには天井の蛍光灯だけでは全然足りません。せめて学習スタンドなどでカメラに近い位置に光源を置き、手元を明るくする必要があります。見えないものをやみくもに拭き取ろうとはせず、見えるものを見える環境に置いて拭き取るほうが建設的です。清掃とは、そういう作業なのです。


…ということで、だんだん偉そうに薀蓄を垂れる調になってきてしまったので、今回はここまでと致します~(^^;)