写真紀行のすゝめ:ハードとか


短命なり!フラッシュメモリ


さて今回はフラッシュメモリについて書いてみます。デジカメを購入すると、たいていセットでフラッシュメモリを買うことになる訳ですが、その寿命は案外早く来るよというお話です。これは結構、深刻です。




嘘つきはフラッシュの始まり


フラッシュメモリカードの規格は最近は50種類あまりもあるようで、「いい加減、種類を増やすのはやめてぇぇ~」 と言いたくなる昨今です。…が、現在デジカメで使われているのはほぼSDHC/SDXCカードに集約されてきています。(さらに大容量のSDUCの規格もありますが市場ではあまり見かけません)

デジカメ黎明期に勢力を張っていたCF(コンパクトフラッシュ)はまだ店頭で入手は可能ですが普及タイプのカメラではSDXCが主流になっています。ちょうど取り回しのよいサイズ感なのか、登場から20年経っても息の長い規格となっています。

ところでこのフラッシュメモリは、メーカーによっては "永久保証" なんてものを謳っていたりするのですが、永久なんてのは嘘八百で、実によくお亡くなりになります。ここではそのお話をしてみましょう。




これが、フラッシュメモリの死に様だ!


フラッシュメモリの死は突然に訪れます。事前に予告もなければ、死亡後のリアクションもありません。おまけにカメラもエラーをほとんど検知しません(※)。撮影している最中には何もわからず、撮影直後の確認画面にもちゃんと画像は写るのに(→これは内部バッファのデータを表示するからでしょうね)、帰宅して撮影データの確認をする段階になって初めて 「あれ? …撮った筈の写真が無いぞ」 と気づくのです。

この画像消失は実に豪快です。以下↓のサムネイルは秩父の夜祭りを撮影したときのものですが、よく見ると連番のはずのファイル名が途中で飛んでいます。9269番から9689番まで飛んでいて、この間なんと420枚もの写真が一度に失われてしまいました。この異常に、筆者は撮影中はまったく気づきませんでした。

※最近のカメラではエラーを検知して警告を出してくれる機種が増えてきました




いちどに大量の画像が消失するのは、フラッシュメモリの消去動作がビット単位ではなくメモリブロック単位で行われるためという指摘があります。ただ上の事例ですと420枚でおよそ1.2GBの容量になりますので、書き換え単位としては少々大きすぎるような気がします。筆者的にはファイルの目次にあたるアロケーションテーブルの部分でビット化けでも起こしたのかな…と推測しています。

筆者の遭遇した事例はこれ以外にも派手なのが5、6回あり、結構甚大な(あまり笑いごとではない…笑うしかないけど ^^;)被害を被っています。画像データは単発で死ぬことは稀で、大抵は数十枚~数百枚単位でまとめて一気に死亡します。100枚単位で消えてしまうとその日の撮影が無意味になってしまう場合もあり、性質(たち)の悪い罰ゲームを食らったような脱力感と徒労感に見舞われます。




実は日々減っているかもしれないフラッシュメモリの容量


フラッシュメモリは書き換えのたびにセルの絶縁体(酸化膜)に電圧がかかり劣化していくため、書き換え可能回数はせいぜい数百回でしかありません。特定のセルに書換えが集中するとすぐに死亡してしまうため、チップ内コントローラで書込み箇所を分散して寿命を延ばす機構(平準化とかウェアレベリングといいます)が組み込まれています。

劣化してダメになった部分は二度と復活することはなく、内部的には問題セルを含むブロック(セクタとは別単位らしい)が見つかると、死亡フラグを立てて以後そこは使わなくする処理が行われます。つまりフラッシュメモリは長く使うほどすこしずつ容量が減っていきます。この処理はいったん記録したデータを読み出すときにパリティチェックを行い、誤りが検出されたらそのブロックを死亡扱いにしてデータは別のブロックにコピーして置き換えるというもののようです。




ダメになった部分のデータは大抵の場合跡形も無く消えてしまいます。稀に中途半端に壊れながらもファイルとしてなんとか体裁を保ったデータが残ることがありますが、内容は上図のようにめちゃくちゃ↑になります。

こうなると 「なんとか救済できないか?」 とファイル復活ソフトなどを試してみたくなるのが人情ですが残念ながらまず救済はできません。ファイル復活ソフトは誤って消去してしまったファイルのディスクイメージ (→目次にあたるアロケーションテーブルがクリアされるだけでデータ本体は残っている) を上書きされる前に拾い集めて再結合するもので、オリジナルのデータが一度はきちんと記録されていることが前提です。これに対してデジカメのファイル消失はそもそも一発目の記録をミスっているので、復活すべきイメージデータが存在しません。そんなわけでファイル復活ソフトを使ってもまず "復元" はできないのです。




多値化によって短命化が加速している


ところでこのフラッシュメモリの短命化が目立ち始めたのは、容量が大きくなって1つのセルに幾つもの値を持たせるようになったあたりからだと言われています。以前は1セルあたり 1bit つまりON/OFFの2つの状態を区別できればよかった(SLC)ものが、2bit、3bit…と多くの値を持たせるようになって(MLC)、ビット化けを起こす確率が格段に上がってきているのです。これはチップ回路の微細化で容量を稼ぐのが難しくなってきたために1セルあたりに閉じ込める電荷のレベルを他段階化することで実質的な容量を増やそうというアプローチで、現在ではデジカメ用に出回っている安価なフラッシュメモリはほぼすべてがこのMLCです。

これでどのくらい寿命が縮んだかといいますと、昔のSLCではON/OFFが区別できればよかったので書き換え回数は10万回くらいまで保障できたものが、最近の3bit-MLCでは1セルで8段階の電荷を判別しなければならなくなり、書き換え回数が1000回程度まで下がったといわれます。寿命は実質的に1/100……これはエライこっちゃです。


保存も実はヤバい( ̄▽ ̄;)


あまり業界の悪口を書くと刺客がやってきそうなのでホドホドにしておきますが(^^;)、データ保持期間も実は規制緩和(?)で短くなっています。業界団体である半導体技術協会(JEDEC)の標準仕様ではかつて記録されたデータの保持期間は10年間とされていました。それが2015年版では1年間に改定されています。もちろん1年経過したらすべての写真がドロンと消失してしまう訳ではありませんけれども、メーカー自身がそのくらいしか保証できないくらい品質が脆弱になっているわけですね。




どう対策するか?


では寿命が有限のフラッシュメモリに対して、ユーザー側にできることはあるでしょうか。正直なところ、なかなか決定打というのはありません。しかし比較的簡便にできることとしては、以下のようなものがあります。

1) PCの外部記憶用途などで使いまわしをしない

最近の多くのPCにはデフォルトでカードリーダが搭載されています。そうなるとフラッシュカードを使いまわしたくなるのが人情ですが、カメラで使用しているフラッシュをPCの外部記憶用途で流用すると一気に寿命が縮みます。

特に作業ファイルなどを頻繁に書き込むのはよろしくありません。また下手に気の効いたディスク管理ツールなどを使っているとアイドリング時間中に勝手にデフラグされてしまう場合もあり、ウェアレベリングで分散書き込みしていた画像ファイルの配置(→ディスク管理ツールからは不連続状態に見える)が特定箇所にまとめられてしまい、そこが集中的に劣化する恐れがあります。

2) カードのフォーマットはカメラで行なう

これはカメラ店で良く聞く話ですが、カードのフォーマットをPC上で行なうのは止めたほうが良いと言われます。汎用のフォーマッタを使うよりもカメラのファームに含まれるフォーマッタを使った方がそのカメラの転送処理に適したパラメータが適用されて有利になるそうで、その程度なら大したご利益は無いんじゃないのと思いきや、カメラ店の営業さんには "安定性に差がある" とかなり真顔で言われます。

いまどきのフラッシュカードはフォーマット済みの状態で売られていて何も考えずにポンと差し込めば使えてしまいます。しかし特に激安メディアだとこのポン刺しでは書き込みトラブルに遭うケースが結構あって、カメラに刺した状態で改めてフォーマットを行うことで安定するのだといいます。よほどマージンが少ない設計なのか、初期パラメータがテキトーなんですかね…安いメディアというのは。

3) 壊れる前に定期的に買い換えてしまう

これはメーカーに要らぬお布施をしているようで筆者的には少々気に入らないのですけれども、究極的には定期交換が一番安心感につながります。筆者はカードを購入するとその日付を記入しておきます。これまでの撮影実績から、記録枚数とか全クリアのタイミングを考慮せず日付基準のみでざっくりと寿命をみると、写真の消滅が起こり始めるのは購入してから15~20ヶ月後くらい。なんと寿命は2年にも満たないのが実情です。いまどきの半導体製品の品質というのはこんな程度なんですね。

そのような次第で、最近の筆者は購入して1年経過したら有無を言わさず新品のメモリカードに乗り換えるようにしています。古いカードは予備役編入です。お財布的には微妙に厳しいですけれども、数百枚単位で画像を消失するよりはマシと考えるしかありません。いまのところはコレが原始的で最も確実な対策と考えています。



 

結局、使い捨ての時代になったと考えるべき


…ということで、長々と書きすぎたので簡単にまとめてみましょう。いまどきのフラッシュメモリに耐久性を求めるのははっきり申し上げてナンセンスです(断言 ^^;)。世の中は既に 「安かろう悪かろう」 の路線をノーブレーキで全力疾走しており、フラッシュメモリは完全に使い捨て商品になってしまいました。

これはメーカーが悪いというよりも 「品質なんて二の次で安い物が売れる」 という市場の現実がそうさせてしまったもので、いわゆるコモディティ化の究極の姿でもあります。カップ麺の賞味期限がだいたい半年くらいと言われますけれども、それに準ずるくらいの感覚で扱うくらいでちょうどよいのかもしれません。