写真紀行のすゝめ:撮り方とか
月を撮って露出を学ぶ
今回は露出補正について書いてみます。カメラ雑誌の特集記事などでは定番のテーマで、「○○を撮るにはプラス補正○段が最適」 などと表記されているアレです。
ただプロの方の示してくれる事例は非常~に微妙なレベルで露出補正の話を取り扱っていて、どうにも素人にはピンとこないところがあります。筆者などは割といい加減なので 「そんな少々の明暗差なんてどーでもいいじゃん」 などと思って……え? ダメですか(^^;)
それはともかく、ここはヌルい写真道のページですので芸術性を云々する以前に 「写らねーよっ!」 という状況をどう回避するかというレベルのお話をしたいと思います。 …いや、素人にとっては案外笑えない話なので。
露出補正とは
さて露出補正とは、カメラ任せで自動的に 「ここが最適」 とされる絞り値とシャッター時間の組み合わせをちょこっとだけズラしてやることです。といっても絞り値やシャッター時間を直接変える訳ではありません。「露出補正値」 というパラメータを設定しておいて、撮像面の明るさに換算してこのくらい小細工しろ、とカメラに指令してやる訳です。もちろん用が済んだら補正値は0に戻しておかねばなりません。戻し忘れるとずーーーーっとその補正が有効なままになって、小細工しっぱなしになってしまいます。
ところで人間の目(脳)というのは結構優秀で、明るいものから暗いものまで割と広く捉えることができます。しかしカメラはある一定幅の明るさ範囲しか捉えられません。平均的に撮影者に受け入れられる品質の写真を撮るためには、明るい部分や暗い部分をある程度切り捨てて、主要部分をコントラストよく取り込むことになります。
このときカメラが自動的に 「このへんが良い」 と判断した露出(絞り+シャッター値≒撮像面に達する光量)がいわゆる適正露出ということになります。この適正露出というのは統計的にあらゆる被写体の反射率を計測した結果から、反射率18%のグレー板を基準として、それが正しく撮影できるように調整されています。すべての色を単色のグレーで置き換えるというのはちょっと乱暴な気がしますけれども、伝統的に工業規格としてそうなっているので仕方がありません。
ただしこれだとグレーから離れて特定の原色に偏った被写体が相手の場合や、より明るい(暗い)被写体ではカメラの認識する "適正露出" が実は正しくない、という事態が生じます。この 「ハズレ」 の状態は、たとえば真っ赤に染まった紅葉とか、日差しの強烈な南の島の砂浜とか、風光明媚なところで発生しやすく、せっかく時間と費用をかけて遠征したのに出来上がった写真はトホホ…という結果になったりします。暗すぎたり、明るすぎたり、特定の色が飽和してしまったり…という写真は、オートに任せっぱなしにすると筆者もよく量産します(ぉぃ)。
それをなんとかうまく収めるために、露出補正を行うわけです。
月を撮るのは練習に最適
露出補正の個別の操作方法はカメラの機種ごとに違うのでまずはマニュアルを見て頂くとして、大抵は 0 (補正なし)から始まってプラス、マイナス双方に 0.3、0.7、1.0 … 5.0 [EV] などの値が設定できるようになっている筈です。プラスで明るめに、マイナスで暗めに補正されます。
この効果を手っ取り早く試して補正感覚を身に着けるのには、月を撮ってみることが最適と思います。色合いがどうこう…というよりは明るさが極端に違う場合の事例ということになりますが、遠くに出かける必要もありませんし練習台としては誰でも挑戦できます。(^^;)
レンズは100 mm 未満だと月を捉えられる大きさから見てちょっと厳しいです。また500mm以上の超望遠では月が画面上で十分大きく捉えられるので補正しなくても適正露出が得られてしまいます(笑) 適度に条件がハズレ気味で補正の練習に都合が良いのは100~300mmくらいの望遠レンズになります。手ブレを防ぐため夜間では ISO 感度は目一杯上げ、絞りは開放にします。多少頑張れば手持ちでイケます。
さて右上の写真は AF-S Nikkor 18-200mm で望遠いっぱいに撮った晩秋の月です。時刻は11月末の午後7時頃。望遠200mmでも月は画面のほんの一部の面積しか占めていませんが(笑)、練習でもありPC上で拡大して見ればいいや、と割り切って考えます。なお月をスポット測光するのは結構ムズかしいので、このときは測光モードはマルチパターンにしています。
さてこの写真、筆者は月を主体に撮りたかったのですがカメラはそうは判断しなかったようで、前景の紅葉、そして空の薄雲をなんとか綺麗に写そうとしています。肝心の月は…真っ白に飛んでしまっていますね。写真全体に占める面積が狭いためか、"要らないもの" として扱われてしまっているようです。
これを、露出補正で綺麗に撮ってみましょう。それにはヒストグラムを見ながら考えるのが分かりやすいと思います。
まず、昼間の月↑を撮ってみたのがこれです(分かりやすいようにトリミングしています)。月は昼でも夜でもその明るさは変わりません(※)。昼間は空の明るさ(大気中の散乱光+直射日光分)とだいたい同じレンジの明るさになっていて、特に何の工夫もしなくても綺麗に撮れます。写真のヒストグラム(上右:RGB込み)をみると、明るいほうにも暗いほうにもレンジを外れていません。こういう状態が 「写る」 ということです。
※月は宇宙空間に浮かんで常に太陽光で照らされており、その約7%の光を反射しています。撮影者が地球表面の明るい側(昼)にいても暗い側(夜)にいても、太陽と月の関係は変わらず、よって明るさもほぼ一定です。 (厳密に言うと月の出、月の入りの前後は大気層との関係で暗めになりますが、ここでは無視します)
さてさきほどの夜の写真(補正なし)の月の部分を見てみると…もう、ほとんどコントラストがなくて白く飛んでいます。ヒストグラムで大きな山になっているのは雲の部分で、カメラはこの明るさ分布に合わせて適正露出を決めて、月の部分を無視したことがわかります。その結果、月そのものはオーバー露光になって飛んでしまったわけです。
そこで、ちょっと極端ですが -5段 の補正をして撮影すると、こう↑なります。雲のコントラストはヒストグラムの左端 (暗い側)に押しやられてほとんど真っ暗になってしまっていますが、月のコントラストが復活して表面の模様も綺麗にみえるようになりました。同じ風景でも、露出補正によってまったく違った写真になることが分かると思います。
類似の事例:逆光と木の葉
さてせっかくですから類似の事例として逆光でトチノキの葉を見上げたアングルを挙げてみます。ちょうどこの日は曇り空だったのですが、曇り空というのは案外明るく、まるで有機ELパネルを背景に置いたように均一な散乱光を降らせて性質(たち)の悪い逆光環境をつくってくれます。この場合、月のケースより空の面積(明るい部分)が広いためカメラもその存在を無視できず、どっち付かずの "適正露出" となって葉のほうがアンダー気味に追いやられてしまいました。
撮影の意図としては葉のアップを綺麗に撮りたいので、こういう状況ではプラス補正をしてやります。補正量は現物合わせでいくつか試して決定します。この日は+2.7段の補正量で無事に葉の緑色を綺麗に撮ることができました。おかげで空の方は白トビを起してしまっていますが、これは仕方のないところでしょう。
ここで肝心なのは、「○○を撮るときは+○段」 などとパラメータを暗記するのが重要なのではなく、ヒストグラムを見ながら補正の加減を調整することを覚えることです。次はビーチリゾート編で似たような事例をご紹介します。