2012.11.04 紅葉の日塩もみじラインを行く:後編(その4)




■峠を越える




ふたたび紅葉の世界に戻って、ハンターマウンテンを後にした。樹氷の世界と紅葉の世界は垂直方向に400mばかりの距離でなだらかに接しているが、路面の高さを走っている限り極楽のような色彩が続いていく。
 



日塩もみじラインの最高点は那須塩原市と日光市の境界付近にある。厳密にいえば日光市側に少し入ったエーデルワイススキー場のあたりがそうである。この付近になると楓の群落はあまり見られなくなり、ブナ、白樺、カラマツといった黄葉の木々が多くなる。
 



そんなわけで日光市側に入った。




 日光市側に入ると、紅葉のピークを過ぎて落葉のフェーズに入った木々が目立ってくる。まだかろうじて色を残しているが、やがて枯葉色に染まって散っていく最後の一華といったところだ。

…ここから先、下りになるとまた紅葉はふたたび鮮やかさを増していく。




■余談として 〜道路開削事情のことなど〜




さてここで多少余談めいた話をしておきたい。日塩もみじラインの最高地点付近の見晴しの良いところに、とある銅像が建っている。大多数の行楽客は気にも留めずにスルーしてしまうと思うのだが、栃木県の山岳観光史を考える上ではぜひともチェックしておきたいところだ。
 



これは元栃木県知事:横川信夫氏(故人)の像である。知事職にあったのは昭和30〜40年代で、最近の世代の方にとっては 「誰それ?」 というのが正直なところだろう。実は筆者も直接は知らない。もはや文献の中の歴史人物である。

そんな知事閣下の像がここにあるのは、この人物が日塩もみじラインを造った旗振り役だったという理由による。ついでに言うと、実は那須ボルケーノハイウェイ、日光第二いろは坂、塩那スカイライン、金精道路、中禅寺湖スカイライン、塩原バレーライン、那須甲子観光道路、八方ヶ原観光道路etc…と、名だたる栃木県内の山岳道路はみなこの人物によるものなのだ。




栃木県観光協会の会長でもあった知事は、モータリゼーションの到来を受け、任期中(=ほぼ日本の高度経済成長期と重なる)に現在の栃木県の観光インフラの原型を作り上げた。多くの県道を開削/拡張し、国道は政府に働きかけて予算を引っ張り、地味な農業県だった栃木県に本格的な近代観光産業を興した。

その手法は典型的な土建屋行政であり、21世紀の今となってはあまり評判の良くなさそうなスタイルではあるけれども、これによって山岳部のアクセス性は飛躍的に向上し、また観光収入も増えた。当時は他の府県との観光誘致合戦で投資を加速したという側面もあり、結果として那須〜塩原〜日光はメジャー観光地としての地位を保つことができている(すくなくとも埋没はしなかった ^^;)。




その任期中に着工された主な観光道路を地図に重ねてみると、栃木県北西部の主要山地がほぼ網羅されていることに今更ながら驚く。既存道路や鉄道、バス路線と組み合わせると一筆書きのように主要観光地をハシゴしながら走り抜けることができ、本来は水利目的のダム開発(五十里、川俣、川治、深山)までもがちゃっかり観光要素として織り込まれている。全体として、かなり壮大な構想のもとに観光振興が計画されたことが伺える。

横川知事の時代には、この他にも多数の林道、登山道、園地、駐車場、展望台などが整備されている。スキー場の整備が進んだのもこの時代の特徴である。現代であれば環境保護団体がうるさく注文をつけたりするのだろうけれども、当時は所得倍増計画などのスローガンもあって世の中がイケイケドンドンであり、実際に観光客も増加したので地元の支持を得た。…そういう時代だったのである。




やがて知事が退任(昭和49年、任期中の死去)すると、その後は大型の観光開発(特に山岳部の道路開削)は行われず、末端の林道などは管理が放棄され通行不可のところが増えていった。特に石油ショック以降は財政引き締めによって、年々山岳道路の維持管理は難しくなっている。

横川知事が手掛けた山岳道路では、任期中に唯一完成しなかった大型案件である塩那スカイラインがその後の予算削減で長期間パイロット道路の維持管理のみの状態に置かれ、のちに廃道とされた。…完成していたらどんな姿になっていたことだろう?




■会津西街道へ




さて峠を越えて龍王峡側の下りルートは、思い切り省略しよう。 白滝の超絶紅葉も軽く写真を載せるに留めておく。




やがて標高が下がると視界は緑色が濃くなり…



会津西街道(R121)まで降りるとまだ紅葉のハシリの世界だった。…それにしても有料道路を出た途端に込んでいるなw

さてここからは、川治温泉を経由して五十里ダム(五十里湖)に向かおう。




■五十里ダム(五十里湖)付近




川治温泉から五十里湖に抜けるには、ダム提高さに合わせて谷底から一気に100mほども高度を上げていく。紅葉バンドの末端で100mというのは結構インパクトのある標高差である。ちなみに五十里ダムは建設当時は日本最大のダム提高さ(昭和31年、112m)を誇っていた。ダム湖は長さ6kmあまりに及ぶ。

ついでながら会津西街道と並走する会津鬼怒川線(野岩鉄道)は、この標高差を九十九折(つづらおり)やスイッチバックで越えるのではなく、ひたすらトンネルを穿って抜けていくルートを採った。モーターパワーにものを言わせてゴリゴリと穴の中を登っていく訳だ。よって視界は効かず、鉄道でこの付近を訪れる観光客が五十里湖を目にするのは上流側の湯西川温泉駅(地下)から鉄橋で対岸に渡る一瞬でしかない。この点では、クルマ派が有利である。(※五十里湖から会津方面になるとふたたび渓谷に沿って登るので視界が開ける)




さてそんな五十里ダム(標高620m)にやってきた。




もみじラインを越えてきた身としては色彩具合に多少の不満を覚えないでもないが(笑)、湖面付近の紅葉は黄色主体に多少の赤が混じる…という状況になっている。




ここの最低気温の変遷はこんな感じである。生データ(上側のグラフ)でみると5℃を下回る日も瞬間的にちょこちょこあったようだが、移動平均でみると実に意地の悪い(?^^;)寸止め状態が続いている。ほとんど同じような経過をたどっている二枚沢林道入口(こちらは鮮やかだった)との差はわずか1℃弱…平均5℃と同6℃でこんな差が出るものなのか、ちょっと不思議なところはあるけれども、まあ事実は事実として受けとめよう。




トレンドとしてはようやくこの2日間くらいで下げトレンドが明瞭になってきている。もうあと2、3日くらいこの傾向が続いてくれると良さそうなんだけどな…(^^;)




さてそんな五十里湖畔をゆるゆると北上するうちに、道の駅湯西川にやってきた。




標高は五十里湖ダム提付近とたいして変わらない筈だが、道の駅周辺の紅葉にはそれなりに赤が乗っていた。ここは湯西川方面から吹き寄せる冷たい風が届く末端付近にあり、地形的な影響で少しばかり寒い。




ここには無料の足湯があるのでしばしマターリ ヽ(´ー`)ノ

ちなみにこの道の駅には二階に本格的な温泉施設があり、川治温泉や湯西川温泉がハイシーズンで一杯であっても気軽に入浴できる。車中泊主体の貧乏旅行者にはちょっと嬉しい立ち寄り先かもしれない。




ツアーデスクを覗いてみると、名物である水陸両用バスによるダム湖ツアーは、案の定というか予約でいっぱいだった。コースには川治ダム周遊と湯西川ダム周遊があり、筆者は川治コースには参加したことがあるのだが、なかなかに面白かった。またいつか乗ってみたいところだが…次の機会はいつになることやらw




■湯西川温泉駅に入ってみる




さてせっかくついでに、湯西川温泉駅に入ってみた。




記念に1区間分の切符を買って、改札スタンプを押してもらう。鉄道マニア的に会津鬼怒川線がどの程度のランクになるのかはよく分からないが、湖(渓流)+紅葉+鉄橋+列車が近接位置から割と自由なアングルで撮れるので、まあ悪くはないはずだ。




ところで駅員氏にはカメラを抱えた筆者が鉄道写真マニアに見えたようで 「せっかくなんだからホームで写真くらい撮って行きなさいよ〜♪」 と爽やかな笑顔で奨(すす)められてしまった(^^;)。こういう場所は列車が来るタイミングでないとあまり華(はな)のある絵にはならないのだが、奨められてしまったからには仁義(…何の? ^^;)に応えねばなるまい。

筆者 「…えーと、次の列車はいつでござんすか」
駅員 「もうそろそろですね」
筆者 「そろそろというのは、どのへんのそろそろ具合で?」
駅員 「…いやもう1分を切っていますが」
筆者 「なんとっ! 煤i ̄▽ ̄;)」

…それにしても、まさかここで鉄ちゃんの真似事をすることになろうとは(笑)

※ダイヤはほぼ30分毎くらいなので、蕎麦でも食っていれば簡単に時間調整はできる。


さて湯西川温泉駅は地下駅なので、こんな地球防衛軍の秘密基地みたいな通路を下ってホームに降りる。1分しかないというので、ここはスタタタっと駆け下りる。
 



トンネル内ホームからは、構内の軌道がいきなり鉄橋に接続しているのがみえた。対岸側はやはりトンネルに突入していて、かなり無理矢理駅を建設した様子が伺えて面白い。
 



…と、おお対岸側から列車がキターヽ(・∀・)ノ




準備をする時間もないまま、適当に勘でズダダダダ…と撮ってみた。明暗差のあるトンネルに入ってくる奥行きのある列車というのは結構撮影しにくく、結局露出がきちんと合ったのは列車が完全にトンネルホームに入ってからだった(^^;) 車両の型式には詳しくないのでマニアックな論評はできないが、とりあえずツラ構えはハート様(何)…という所感のみ述べておきたい。
 
…ということで、即席 「鉄」 はこのくらいにして、紅葉テーマに戻ろう。次はいよいよ本日の終点、湯西川ダムである。


<つづく>