2020.05.15 コロナウイルス顛末記:後編 (その1)




前回の続きです (´・ω・`)ノ

■3月1日




この日、ダイヤモンドプリンセス号のすべての乗員乗客が下船完了となった。 えらく時間がかかったのは全員の疫学検査が済むのを待ったためだそうで、最終的にコロナウイルス陽性は696名と発表された。 内訳は乗客552名、乗員144名。PCR検査を受ける前にチャーター機で帰国した乗客を除くと、検査総数は3618人、罹患率はなんと19.2%であった。 閉鎖空間に多人数がいる環境では、かくも感染が広がりやすいことが示されたといえる。

この結果は欧米のメディアに酷評され、日本の検疫は失敗であったとの論調が強かった。 しかし発症の推移をみれば、日本政府の関与した2月5日以降に感染したと思われる患者はほとんどおらず、 日本に入港する前に既に船内でウイルスが蔓延していたと見るべきだろう。 それまでは乗客サービスと称して船内でコンサートやダンスパーティが開かれていたのであり、 その責任は船の運用を行っていた企業に帰するべきもののように思える。

とはいえ3600名あまりのサンプルから得られた結果は貴重なデータとなった。 驚くべきなのは感染しても無症状の者が6割もいたことで、 市中ではこの6割の無症状者がウイルスを蔓延させる媒介者となる。 もし悪意をもってこのウイルスを 「設計」 した者がいるとすれば、きっと悪魔の称号を贈られる資格があるだろう。




■3月6日




国内の感染者数 314名、死亡 12名。
中国の感染者は 80552名、死亡 3042名。
公式発表を見る限り、中国国内では感染拡大が止まったようにみえる。

ただし2月後半の時点でこれは予想されていた。日本の大手マスコミでは流れなかったけれども、 ネット上では中国当局が2月末日までに感染を収束させろと地方政府に命令したことが知られており、 それに合わせてぴたりと新規感染者数が0になったからだ。 SNSや動画サイトでは 「そんなわけねーだろー!」 との合唱が起こったが、 中国政府は 「我々は勝利した」 と宣言し、休業していた企業活動の再開を命令し始めた。




一方日本国内では、人の往来や経済活動の制限を含む緊急事態宣言を出せる法案が提出され、野党が反対するという(くだらない)駆け引きが展開していた。 実はこの法案は、平成24年(2012)に当時の民主党政権下で成立した新型インフルエンザ等対策特別措置法(ブタインフルエンザの流行対策)に今回の新型コロナを追記したものなのだが、「国民の権利を制限することにつながり、けしからん」 ということで今更ながらの反対論が出ているのである。いやそれ、もともとお前らが成立させた法案のコピーだろ、との指摘は国会には届いていないらしい。

余談ながら、この 「特別措置法」 というのは日本政治の悪癖のひとつである。国家的な緊急事態が訪れたとき、 日本にはそれに対応する汎用的な法律がない。だからいちいち期限と範囲を区切ってちまちまと臨時の法律を作らねばならず、 これがまた野党が徹底的に足を引っ張るものだから、毎度毎度混乱を繰り返した挙句、ガチガチに縛りのかかったショボい対策しかできない。 だからいつまで経っても、too late、too little な対策しかできないのである。




■3月11日




WHOのテドロス事務局長がようやくパンデミック宣言を出した。 世界の主要メディアの報道内容を四捨五入すると 「おせーよ!」 の一言に尽きる。

国内では第二派の感染ピークが立ち上がりつつあるように見える。 欧米での感染者が増えたことで観光客の締め出しが始まり、追い返された旅行者がウイルスを抱えて帰国する事例も増えている。

のちにウイルスの遺伝子型を調べた学者によると、1月〜2月頃に日本国内で流行したのは直接武漢から入ってきたオリジナルに近いウイルスで、その後欧米で蔓延し強毒型に変異したタイプがこの時期に日本に流入していたらしい。

欧州でのウイルス流行は2月の中旬ごろには顕在化しており、このタイミングで観光に出かけるセンスもどうかと思うけれど、何カ月も前から予約していた旅行をキャンセルせずに強行する層は一定数いた。これらの人々をうまくコントロールできなかった点で、出入国管理を管轄する法務省は判断の甘さを問われても文句は言えまい。




■3月13日




さんざんグダグダと迷走した挙句、新型インフルエンザ等対策特別措置法(2012年)の改正案が国会で可決成立(※)。 翌日から施行となった。

…が、施行と同時に緊急事態を宣言するのかと思いきや、官邸は 「まだ感染爆発とはいえない」とか 「様子をみて判断」 などと言っている。 特措法の審議のなかでネチネチと国民の権利を制限するな〜、と騒がれたことが判断の足を引っ張っているのは間違いなく、こういう国民を幸せにしない政治家は駅前商店街で射的のマトにでも(以下省略)

※これだけモメても法律の効力は2年のみという時限立法で、その後に未知のウィルスが流行した場合はまた別途法律を作らねばならない。


さてその間、TV番組の様相も一変して妙な雰囲気になっていた。スポーツ大会は軒並み中止となり、開催されたとしても無観客で非常にシュールな画面になっている。大相撲など観客の声援が無いので 「何かのリハーサルですか」 みたいな感じなのである。




まあこれも、後から思い起こせば "時代を象徴する絵" ということになるのだろうな。




■3月16日




さて筆者の自宅周辺ではぼちぼち梅の花が見頃になってきた。世間はウイルス騒ぎで湧いているけれども、個人の生活に重大な影響が出ているかといえば実はそうでもない。ただ漠然とした不安感ばかりが広がっている。

国内の感染者は 713名、死亡24名。じわじわと感染事例は増えている。
中国の感染者は 80860名、死亡者3213名。勝利宣言が出た後も微増傾向はあるようだ。
中国以外の国(地域)は感染者81721名、死亡者3282名となり、発生国である中国を逆転した。

感染者の急増しているのは 韓国 8236、米国3244、フランス5423、ドイツ5426、イタリア20603、スペイン7753 、イラン13938などで、欧米に飛び火して爆発した格好になった。

国内の緊急事態宣言はまだ出ない。




■3月22日




東京では桜が満開になった。春分の日を含めて週末が3連休になったことで花見客が一斉に繰り出している。 自粛、自粛、で消費が縮小していたところに気の緩みが出た……と評される陽気であった。 これが1週間後に始まる感染爆発の引き金になるとは。




■3月26日




国内の感染者が1055名となり、4桁の大台に乗った。死亡者は43名。
中国の感染者 81218名、死亡者 3281名。
その他の国/地域では感染者 33万3326名、死亡者は15027名。

感染の広がった国/地域は計188に及び、世界のほぼすべての国/地域がウイルスに汚染された状態となった。

国内感染を都道府県別にみると下表のとおりで、最初に感染が広がった北海道で早々に抑制が効いたところに東京都、愛知、大阪の感染者が増えて並びつつある。医療現場からは非常事態宣言を出さないともう持たないとの声が上がり始めた。

No 感染 死亡
--------------------
1 北海道 162 6
2 東京都 160 5
3 愛知県 139 17
4 大阪府 123 2
5 兵庫県 87 6
6 神奈川県 73 4
7 埼玉県 53 1
8 千葉県 46 0
9 新潟県 24 0
10 京都府 23 0




東京都は外出自粛要請を出して週末は家に留まるよう呼びかけを始めた。これに呼応して都内のデパート、百貨店などは休業を発表し始めた。




同時に食料品の買いだめが始まっている。政府は食料備蓄は十分にあるとコメントしているが、マスクや消毒用アルコール、ハンドソープ類が市場から消えて供給されないため、あまり信用されていない。特にパスタ、インスタントラーメン、小麦粉など保存の効くものから買われているようだ。




■3月30日




国内の感染者数は 1866名、死亡者 54名。早期に罹患した患者は回復しており退院した者が424名いる。ただしこのウイルスは症状が長く続き、3週間ちかく病床を占拠する。つまりいったん入院した患者がなかなか退院できない。おかげで病院の収容能力が食い潰されて限界にさしかかっている。感染症用の陰圧室はもう一杯で、一般病棟を簡易的に仕切って軽症者はそちらに移す対応がとられはじめた。

緊急事態宣言はまだ出されていない。

この間、米国で急激に感染拡大がすすみ、特にニューヨークがひどい状況になっている。米国の感染者数は13万9674名、死亡者は2606名になった。イタリアはさらに悲惨で、感染者こそ9万7689名と米国に追い抜かれたが死亡者は1万779名とついに1万人を突破した。




医療崩壊の起きている欧米では患者の選別(トリアージ)が始まっている。人工呼吸器がまったく足りないので、助かりそうもない重症者には手をかけず、助かる見込みのある患者に医療リソースを集中しようということになっている。




ニュース原稿の文字列には表れてこないけれども、選別には症状の重さのほかに支払い能力の有無も影響している。欧米の医療はビジネスであって慈善事業ではないので、「医は算術」 はきわめてストレートに正解である。日本のように国民皆保険が制度化されて、コロナに関しては100%国庫負担となっているほうが例外的なのだ。



 

■ 3月30日




この日、国内ではお笑い芸人の志村けん氏の訃報が報道された。まさかの新型コロナによる有名人の死亡である。症状が出始めたのは3/17頃のようで、潜伏期間を2週間と仮定すると感染時期はちょうど国会で特措法の審議が始まっていた頃であろうか。

ちなみにこの訃報が大きくニュースで取り上げられたお蔭で、外出自粛の必要姓についての認識が改まった感がある。ともかく故人のご冥福をお祈り申し上げたい。




■ 3月31日




さて3月も末日となり、国内の感染者急増に関連して政府は労使団体に感染拡大防止についての協力要請を呼びかけ始めた。とりあえず疫病よりも工場の稼働率を気にしていそうな経団連をなんとかしないといけない……と考えたのかどうかは不明だが、経団連、日本商工会議所、連合(労組)などに一斉に働きかけを始めたようだ。

要請文の要旨をざっとナナメ読みすると、労務管理を徹底しろという部分に重きが置かれていて、風邪の症状が現れたらとにかく休ませろという趣旨のことが書いてある。筆者的には 「一か月以上遅いんじゃないの…?」 という所感なのだが、やらないよりはやったほうが良いだろう。


<つづく>