2020.10.25 国営ひたち海浜公園でコキアを見る
(その1)




茨城県の国営ひたち海浜公園に行ってきました (´・ω・`)ノ



今回は、紅葉レポートが十年一日のごとくマンネリなのもアレかなと思ったので(笑)、県外のスポットとして国営ひたち海浜公園に出かけた話を書いてみようと思う。

10月後半だと茨城県の平野部はまだ最低気温が10℃以上あり、8℃-5℃法でみる楓の紅葉条件には当てはまらない。しかしここには箒草(ほうきぐさ)の一種であるコキアが植えられていて、これが他の樹種より早めに染まって最近はなかなかに人気であるらしい。今回はそれを短稿としてコンパクトに紹介してみよう。




国営ひたち海浜公園は那珂川の河口(那珂湊)から7kmほど北に位置する公園で、東西2km、南北3.5km、総面積は215haほどある。ここはかつて旧日本軍の射撃練習場の一部で、のちに陸軍飛行学校が置かれ、戦後は米軍に接収されて射爆場として使用されていた。それが1973年に返還されてのちに公園として再整備されたのである。

公園は駐車場に近い部分は遊園地のように整備されているエリアもあるが、面積の8割以上は自然の地形を生かした芝生や森林、砂丘などで構成されており、散策路や広場、サイクリングコースが大部分を占めている。

今回の目的であるコキアは公園中心部の "見晴らしの丘" なる小山に植えられていて、海浜公園のシンボルのような扱いになっている。とにかく、どのようなところか見に行ってみよう。




■ 海浜公園への道




そんな訳で午前7時に那須塩原市を出発、東北自動車道を南下し、北関東自動車道に乗り換えて水戸方面を目指していく。

海浜公園は北関東自動車道の起点である茨城港に隣接しており、筆者の自宅のある那須塩原市からはほとんど100%高速道路のみで到達できてしまう。便利にもホドがあるだろう、とツッコミを入れるのに十分な立地な訳だが、ではなぜ今まで紅葉の季節に訪問しなかったかといえば、筆者の居住地そのものが紅葉の名所ぞろいなので地元優先で写真を撮っていたから……ということに尽きる。紅葉は1週間ズレてしまうと見頃が微妙なことになってしまうので、今週末にどこに行くか……というターゲット選定は、実はとてもシビアなのだ。




ほぼ高速道路オンリーなので移動は早い。自宅を出てからおよそ160km、時間にして2時間弱でもう到着である。ただし既に海浜公園には首都圏の観光客が殺到しており、駐車場入口にはクルマの長蛇の列が出来ていた。支払いは現金のみの手渡し一択。国営なんだからETCゲートくらい作ってくれてもよさそうなんだけどな。




さてなんとかクルマを停めてチケットを……と思いきや、なんとコロナ対策で入場制限が掛かっており、すでに本日は定員に達していた。

なにそれ、ひどい…!!w

どうやら予約なしの下層国民は遠くから眺めるだけで我慢しろということらしい。
いやそれ、見晴らしの丘だけ制限しても既に駐車場に大量のヒトやクルマがいるじゃん!




とはいえ既に高速料金を支払って現地に来てしまったからには、そのまま引き返すのも勿体ない。釈然としないけれどここはマインドリセットして前進することにしよう。そんな次第で西ゲートを通過して入場する。




海浜公園には大きな駐車場が東西2箇所あり、出入り口は西ゲート、中央ゲート、東ゲートの3カ所がある。このうち中央ゲートの付近には遊園地のような遊興施設が集中していて賑わいがあるのだが、公園の構造からいえば本来の正面玄関は西ゲートのように思え、ここから大きな池を経由してコキアの植えてある見晴らしの丘に道が通じている。今回筆者は西駐車場にクルマを停めて、最短コースで見晴らしの丘を目指している。




西ゲートを抜けてすぐ目の前に広がる池は東西200mほどある。ゲートに近い西端は円形劇場のようなステージ、東端には噴水があり、北側にはレストハウスがある。




そのレストハウスに隣接したイチョウがそこそこ黄色味を帯びてきていた。




おお、まだまだ気温は高めなのに、もう色づいてきているのだな。イチョウは黄葉する条件がざっくり最低気温≦10℃くらいからと言われている。紅葉チェッカーでみると、夏以降この国営ひたち海浜公園で最低気温が8℃を割り込んだ日は無く、ようやくぎりぎり10℃ラインに引っかかったくらいなのだが、こんな状況でも結構色づくのだねぇ。




こちらはコリウスという紫蘇(しそ)の仲間である。最初は 「おおこんなところにも紅葉が……」 と思ってしまったのだが(笑)、聞けばこの植物はもともと葉が赤いのだという。こんな色でもちゃんと葉緑素は葉の中に含まれていて、光合成をしているらしい。




さて西ゲートから800mほど進んだところで分岐に差し掛かる。予約の神様(なんだそりゃ)に祝福された選ばれし人々はここから丘の上へと流れていく。




一方、下層民(悲)である筆者はふもと方面と書かれた標識に従っていくことになる。




案内MAPを見ると主要な通路は一方通行でかなり厳格に管理されているらしい。夏場に来たときはこんなことはなかったので、まあそれだけコキアの紅葉の季節には人が多いのだろうな。




■ 見晴らしの丘




さて雑木林の通路を進んでいくと、まもなく視界が開ける。あれが見晴らしの丘だ。




おお、一面に染まっているな!

丘は東西300m、南北400m程度の潰れたひょうたんみたいな形をしており、ローカルなピークが3つある。高さは30mくらいであろうか。真っ赤なコキアは丘の頂上付近に広がっている。低いところにはコスモスが咲いていた。




ぎりぎりまで寄ってみる。 ……う〜〜〜〜ん、微妙に遠いっ!! コスモスもそれなりに見ごたえがあって悪くないのだが、丘の上までは直線距離で200mあまりあって、やはり麓(ふもと)から見るだけというのは厳しいか。




仕方がないので望遠レンズでズーム。なんとかコキアの赤色を捉えてみた。

コキアの紅葉は最低気温が15℃を下回るとぼちぼち色づいてくる。公式ブログの紹介写真とアメダスの観測データを付き合わせてみると、赤色がぐぐっと載ってくるのが15℃未満の累積日数8日目くらいで、ピークは12〜17日目くらいに来るようだ。公式ブログ+ツイッターをみると今年の赤色のピークは10/15〜10/20くらいであったらしい。




さて丘には登れないものの、散策路にいくらか箒草の植えてある一角を見つけたので、ちょっと歩いてみた。 ん……? 丘の上よりこっちのほうが微妙に色づきが良くないか?




アップで撮ってみると、やはりなかなかいい感じで色が乗っている。そうだよ、こういう赤色が見たかったんだよ♪




観光ポスターで見るコキアの紅葉は、印刷具合にもよるのかもしれないけれど非常に冴えた赤色を見せている。しかし過去のブログ記事を掘り起こして調べてみると、ここまで鮮やかな赤色が保たれているのはせいぜい数日で、よほど運が良くないと出会うのは難しそうな気がする。




それを鑑みて再度丘の上を見てみると、赤色を保っている個体もあるけれど、やはり全体的にみればピークアウトしつつあるようだ。まあこのあたりは天気の神様の采配であって筆者としてはどうにもならない。もしできることがあるとすれば……楓をターゲットにしていた紅葉チェッカーにコキアを考慮した15℃ゲージを追加して予想精度を上げることくらいかw

ちなみに公園の職員氏に聞いてみたところ 「ピークアウト」 とか 「見頃が過ぎた」 という表現はガンとして聞き入れる気配がなく、「見頃の後半です!」 と言い張っていたので、まあそういうものなのだろうと思うことにしたい(笑)




■ ところでコキアって何だ?




さてそういえばコキアという植物がどういうシロモノなのか説明していなかった。コキアの和名は箒草(ほうきぐさ)または箒木(ほうきぎ)という。一年草であり、蒔種は5〜6月、10月早々には紅葉して枯れてしまう。実は食用に出来ないこともない。繊維が丈夫で弾力に富むことからかつては箒の材料に使われ、紅葉が派手で鮮やかなことから最近では園芸用に重宝されている。

この植物の優れた点は、病害虫に強く、管理が楽で、公園や植物園で春の花が終わった後に播種しても十分間に合い、その紅葉のピークはイチョウやカエデより早い点にある。ふだん紅葉の見られない温暖な地方でもコキアは鮮やかに染まり、視覚的なインパクトが得られる。

※箒の材料としては箒諸越(ほうきもろこし)という草も用いられる。こちらのほうが取れる繊維が長くて真っすぐなため、現在の市販の和箒は箒諸越製のものが多い(コキアの側からみるとちょっと残念だけれど)




参考までに見晴らしの丘の8月の風景(↑)を紹介してみよう。いつ撮ったんだよ、と言われそうだが筆者は茨城県にはちょいちょい来ているので実はストック写真は結構持っている(笑)。

紅葉の前であっても丸く茂ったコキアの株はまるで剪定した庭木のような外観で、整然と並んだ図形的な面白さをみせている。コキアは放っておいても勝手に丸い形に育つところがミソで、ツツジ園であれば庭師の動員が必要になる場面でも 「基本的に放置」 でよい。これは公園を管理する上で大きな利点だ。




見晴らしの丘の主役は当初はコスモスだったそうで、そこに 「紅葉する植物が欲しい」 という声が寄せられてコキアが加わった。 海浜公園には紅葉する樹木が少なく、秋の見どころが少なかったからだ。




コキアは最低気温が15℃くらいでも葉が色づき、水戸周辺の気候にあっては関東甲信越で山岳部の紅葉がニュースで流れ出す10月の行楽シーズンにちょうどピークがくる。この10月というのは非常に重要で、紅葉のニュースは10月前半の 「関東でも紅葉の便りが〜♪」 という時期のものがいちばん注目度が高く、時期が遅くなるほど扱いが小さくなってしまうのだ。

その点、紅葉の早いコキアを選んだことで、従来は参戦すらできなかったこの時期の観光客争奪戦に、国営ひたち海浜公園はエントリーすることが可能になった。この読みは大当たりし、今では首都圏の観光客がどどっと集まっている。たいへん結構なことだと思う。




余談になるが紅葉の季節におけるひたち海浜公園の快進撃はここ10年ほどのことで、決して古い話ではない。だから知らない人はまったく知らなかったりする。

そもそも紅葉というのはあまり奇抜なことの起こらないマンネリ系の季節性イベントである。自然風景における紅葉は十年一日のごとく同じスポットが同じように紅葉し、ぶっちゃけたところ変化がない。定番のプライベートポイントを持っているベテランカメラマンほどこの罠にハマりやすく、新しい名所が誕生しても 「さて、お試しに」 という訳にはいかない。




かく言う筆者も、自然の紅葉の美しい観光地の在住だけに、オンシーズンに他県の紅葉を見に行こうという発想はなかなか持てなかった。 夏場にここに来ることはあっても、秋に来たのは実は初めてなのである。

結論からいえば…… 「どうしてもう少し早く来なかったのだろう」 という気分になった。いくらかの自省を込めて、ここで白状しておきたい(^^;)


【つづく】