写真紀行のすゝめ:撮り方とか


色被りをレタッチで救う


今回はレタッチで色被りを補正してみるお話です。身も蓋もない言い方をしてしまえば 「ホワイトバランスを取れよ」 で終わってしまう話なのですが(^^;)、ここはヌルい写真道のページなので後から多少の小細工で救済するのもアリというゆるゆるな感覚で参ります。なお写真コンテストに応募する場合はレタッチは禁止されていることが多いので、あまり小細工は弄さない方がよろしいかと(笑)




照明による色被り


そんな訳でまずは照明による色被りの補正から参りましょう。



これ↑はとある飲食店で夕食の時間帯に撮った壁面のチラシです。最近は那須でも郷土料理として "すいとん" などをプッシュしているようで面白いので撮ってみたものですが、詳細を語り出すと長くなりそうなので観光的な話は別の機会に譲ります(^^;)

さてこの写真には全体的にオレンジがかった色が被っています。実はこれは失敗写真ではなく、筆者は割とこういう色調が好みなので夜間でもホワイトバランスを "晴天" で撮ることが多いのです。こういう色調はフィルムカメラでは標準的なカラーネガフィルムで撮った場合に出ます。カラーネガフィルムで一般的に良く使われるのはデーライトタイプ(昼光)で晴天の昼間の屋外の光線状態(色温度5500K)が基準です。これで夜間、白熱電球(2000〜3000K)で照らされた風景を撮ると色温度の違いからオレンジがかった色調になります。この色調で縁日の夕方の情景などを撮ると、実にノスタルジックなイイ感じになるのですが…今回は色補正がテーマなのでこのへんの解説はホドホドにして(^^;)、さっそくこれを補正してみましょう。




この写真のヒストグラムをRGB別↑で見てみると、色被りの状況は一目瞭然です。緑と青のコントラストが低く、輝度レベルも低くなっています。相対的に赤が強いので、赤被りの状態になっていると言えます。




これをレベル補正つまみでグイと引っ張って、赤に対して緑と青の輝度分布をほぼ同じ程度にそろえてやります。「えぇーっ、それだけ?」 …という声が聞こえてきそうですけれども、別段なにか秘密の必殺技があるわけではなく、色被りの補正とはこういうレベル合わせが基本なのです。




すると赤が強かった最初の画像と比べ、緑と青のバランスが取れた比較的自然な色合いになります。実際にはRGB各チャンネルをもう少し厳密に微調整したほうがいいのですが、別段、カラーチャートの色合わせをやっている訳ではないので色被りが大雑把に取れればいいや…と筆者などは割り切ってしまいます。

でもこれだと…ホワイトバランス的には改善したのかもしれませんが、せっかくの夜の雰囲気が吹っ飛んでしまって、場末の飲み屋でちょいと一杯…という情感は全然出ていませんね(^^;)。写真に被った色というのは雰囲気を出す演出効果の側面もあるので、何でもかんでも補正すれば良いというものではありません。そのへんは、うまく考えて補正の程度を加減しましょう。





水中写真の色被り


さて次には水中写真の事例を載せてみます。



水中写真といっても筆者はダイビング系の人ではありませんので(^^;)、ヌルい事例としてグラスボートから覗いた海底の様子を題材にしてみます。今回は石垣島の川平湾の珊瑚を見たときの写真です。船内の様子↑を見れば分かるように、グラスボートから見る海底というのは水の層を通して見ることになるので青くなっています。

珊瑚の海というとテレビの映像などで透明な水とカラフルな珊瑚…というイメージを持っている方も多いかと思いますが実際には水中撮影というのは色補正がとても難しく、プロの撮る写真やムービーはホワイトバランスを水中用にカスタマイズしています(それも大抵は現場合わせ)。ホワイトバランスをいじらずに色を出すには、水中に潜って近距離撮影する場合に限り強制的にフラッシュを焚いてしまうという技もありますが、グラスボートでこれをやると窓のガラス面に反射光が映り込んだり、水中を漂うゴミや気泡が光って亡霊のような特殊エフェクト(笑)に見舞われることになります。基本的にはISO感度を目いっぱい上げて、フラッシュなしで撮るのが一番自然な(というより失敗しない)撮り方です。




さてそんなフラッシュなしISO-MAX(3200)で比較的水深の浅い(3mくらい?)ところで撮った写真がこれ↑です。浅いところなので青被りはまだ少ない方ですが、それでも珊瑚の写真としては 「なんだかなー」 感が漂いますね。




PC上のレタッチソフでこの写真のRGB各チャンネルの色分布を見てみると、赤が極端に低く、緑、青が高めに寄っています。ここから水中の青被りとは、要するに赤色が失われてしまうことだというのが分かります。




これをレベル補正でレンジ幅いっぱいになるよう調整してこんな↑分布にしてみると…




珊瑚や魚の色がかなりハッキリと出てきました。あまりいじり過ぎると "作った画像" っぽさが目立ってしまうのでホドホドのところでやめておくのが吉かと思いますが、このくらい色が載っていれば 「珊瑚の海を見てきたよ!」 と友人知人に堂々と報告できそうです。少なくともガッカリされることは無いでしょう。

【追記】
ところで珊瑚がところどころ、なんとなく色が滲んだように写っていますが、これは色収差によるものと思われます。潮の流れがあるので、厚い水の層を通してみると水中の像はゆらゆらと揺らいでいます。さらにグラスボートの底板ガラスはさほど高級なガラスを使っているとは思えず、屈折率も光学レンズ並みの均一性は期待できません。こういう条件だと波長(=色)による屈折のバラつきが大きくなって色にじみを生じます。これは後から画像処理で補正するのは困難なので、これ以上の画質を望むなら防水カメラを持って珊瑚に物理的に近づく (=カメラ〜被写体間の水の層を薄くする) 必要があります。(…そうなるとヌル道から外れて本格撮影になってしまいますが ^^;)




さて別の事例を見てみましょう。こちら↑はもう少し深度があって青被りが強い事例です。補正をかけることで色は出てきますが、青被りによって諧調が失われているのをムリヤリ引き伸ばす格好になるので、どうしてもノイズ感が出てきます(特に赤色が… ^^;)。こういう状況だと、JPEGの "撮って出し" を補正するよりRAWで撮影して別途補正を入れたほうが良さそうに思えます。




赤い魚のいないショットだと、やはりノイズ感は少ないです。青被りの場合、失われるのは赤色が主体で、緑、青のチャンネルには諧調が比較的良好に残っているのが大きいのでしょうね。

ちなみに余談ですが、その道の人に聞くと水中撮影では足りない赤成分を補うために赤い色フィルターレンズに付けることがあるそうです。フィルターを使うということは赤を補うというよりも緑、青の透過率を落として各チャンネルのレベルを合わせるということでしょうけれど、それだと撮像面に届く光量は落ちますからF値的には暗くなってしまいます。…しかしまあ、十分に高感度なカメラならそういう手法も悪くないでしょうね。

それよりも筆者的にはホワイトバランスに "超・水中用(強/中/弱)" みたいなのがプリセットされているともっと手軽でヌルい対処が出来そうで、ありがたいのですが…どうなんでしょうね(笑)