写真紀行のすゝめ:撮り方とか


周辺光量落ち対策


今回は周辺光量落ちについて書いてみます。普段街中でスナップを撮っていたりするとあまり気が付かないのですが、広い空とか海とか、比較的均一な色の広がる風景を撮った時に 「なんだか四隅が暗く写っているな…」 と気が付くことがあります。これは俗に周辺光量落ちと言われる現象で、実はカメラレンズにおいては原理的に避けられません。ただし条件によって派手に出たり目立たなくなったり…ということはありますので、撮影意図に応じてうまく付き合って参りましょう。



周辺光量落ちとは?


そんな訳でまずは周辺光陵落ちの典型的な症状を見てみましょう。こんな状況(↓)です。



まるで昔の映画を見ているような感じで四隅が暗くなっていますね。カメラレンズには原理的に中央が明るくて四隅が暗くなる傾向があります。主な原因は2つあって、ひとつは鏡筒または絞りによる口径食(ヴィネット)、もうひとつがコサイン4乗則による光量低下です。いずれも真正面から入ってくる光ではなく、斜入射光が原因で生じます。




口径食のイメージは、レンズを斜めから見てみると理解しやすいと思います。正面からは丸く見えている鏡筒内壁が、斜め方向からみると半月のように見えますね(=つまり均一に光が入射しない)。これが360度あらゆる方向で起こって、周辺が円形に暗くなるのです。

この現象は口径食で影になる部分の相対面積を小さくすれば軽減することができます。光学的には絞り側、鏡筒側のどちらの条件を振っても良いのですが、一番手っ取り早いのは絞りを絞ることで、原理がわかってしまえば実は対処も単純です。

もうひとつのコサイン4乗則というのはレンズの設計者でなければ名前すら聞くことのない原理かもしれません。レンズに入射する光の明るさが、光軸に対する入射角のコサイン4乗に比例して低下するというもので、ただしこれはユーザーが頑張ったからといって何とかなるものではありません。厳密にいえばそのほかにセンサの素子一粒毎につくられたマイクロレンズの出来栄えもいくらか影響があります。…が、これもユーザーが頑張ったところで何かが変わる訳ではないので、ここでは割愛しましょう(…なんという乱暴な説明だっ♪ ^^;)。

…で、実用上はどうかといえば、口径食の影響を絞りで緩和してやれば四隅落ちはほとんど分からないレベルにまで低減できます。そんなわけで、ここえはとりあえず "絞りで軽減できる範囲で対策する" と認識しておきましょう。



 

斜入射光は邪険にはできない


ところで、絞りを絞ると解消するよ…などと言うと、「じゃあ何でメーカーは最初から絞りに設計的な工夫をして斜入射光をカットしないのさ!」 とツッコミたくなる方がいるかもしれません。

しかしこの斜入射光というのは、むやみに減らせば良いものではないのです。なにより被写界深度をコントロールするのに必要で、"絞り解放" でなぜ背景がボケるかといえばこの斜入射光による像が球面収差によってピンボケになるのを利用しているのです。それにシャッター速度を稼ぐにはある程度の光量はどうしても必要で、絞りはやはり解放側に余裕を持っておいたほうが有用です。ここにさらに設計上のコストの制約が加わって、現在のカメラレンズのスペック相場ができています。(レンズの直径を巨大にすれば現象は緩和できなくはないのですが、重くて高いレンズは売れません)

さて右の写真はイルミネーションをぼかして撮ったものです。ボケ像が画面中央付近では丸く写り、周辺部では口径食を反映して半月気味(ラグビーボール型といったほうがいいかも)に写っていますね。間接的ではありますがここからもボケ像の形成に斜入射光が一役買っていることがわかると思います。

こういうことを気にし始めると、写真術というのは何を狙って何を捨てるのかという思想の域に入ってきて、一気に難しいものに感じられるようになります。そしてその先に、あるとき突然 「悟り」 がやってくるのですが、話が脱線するのでここでは省略いたしましょう(笑)

※ところで口径食を軽減する簡易なワザとして、ボディをAPS-C、レンズをフルサイズ用で組み合わせるというのがあります。イメージサークルに対してセンサが一回り小さくなるので周辺部が暗くなっても検知されにくいというものですが、それを目的に実際にこういう買い物をする人はごく少数派です。…やはり、高くつくからでしょうね(^^;)




絞りの加減と周辺光量の実際


それではここで実際の絞りと周辺光量の関係を見てみましょう。カメラ雑誌等では 「周辺光陵落ちは広角レンズで出る」 とよく書かれていますが、望遠でも現象は出ます。…というか筆者のよく使う高倍率ズームでは、望遠で撮ったときの方が現象が派手にみえます。

※以下の事例は Nikon D750 に AF-S Nikkor 28-300mm 1:3.5-5.6G + PLフィルタ (Marumi DHG Circular P.L.D 77mm) を装着して撮影しています。なおズーム状態によって解放絞りの値は変わるので、解放F値は一番値の小さいショットを参考にしてください。



まずは望遠 300mm 側からです。これ(↑)は河原の遠景を撮ってみたものですが周辺光量落ちはしっかりと出ています。絞り解放(f3.5)から次第に絞っていくと、f8 くらいまで絞れば影響は気にならない程度に緩和するようです。




次に中望遠 105mm で公園を撮ってみました。この条件では解放F値はf5.3で、これも f8 くらいまで絞ればまあそこそこ周辺光量落ちが気にならなくなるようです。




標準レンズにちかい 60mm まで引いてみました。解放F値はf4.8で、f7くらいまで絞ると周辺光量落ちがほぼ解消します。これらの結果からすると、普段の風景撮りなら f8 以上で運用していれば、まあ派手な周辺光量落ちには遭遇しないで済みそうです。

※周辺光量落ちの程度はレンズ毎に微妙に異なります。




ヴィネットコントロールは使えるか?


ところで周辺光量落ちを撮影時にカメラ内で補正できる場合あります。ニコン機ではD3以降の機種に搭載されている機能で、筆者のD750にもメニューがあり、ヴィネットコントロールと呼ばれています。 他のメーカーのカメラでも名称は異なりますが類似のメニュー項目があります。(ちなみに上の作例ではこの機能はOFFにしてあります)

この機能はニコン機では純正のDレンズを装着したときにレンズ情報(プロファイルとおそらくその時の焦点距離+F値…と思うのですが取説には詳細の記載なし ^^;)を読み取って補正を行うもので、サードパーティ製のレンズでは機能しません。筆者的にはレンズデータのプロファイルフォーマットを公開してサードパーティも巻き込んで広く対応すれば便利なのに…と思わないでもありませんが(^^;)、まあそのへんはいろいろと大人の事情があるのでしょう。なお純正レンズであっても、フィルターの装着状況は電気的に知る方法がないので、フィルター枠の影響は補正の対象にはならないようです。

…で、この機能をON(せっかくなので強め)にして撮って(↓)みました。フィルターは薄枠のPL(マルミDHG Circular P.L.D)を1枚だけ装着しています。



結果は…うーん、微妙というか、軽減はしているようですが期待したほどでは…?(^^;) 調べてみると、どうやらこの機能はもともとRAWファイル用のもので、JPEGでは補正が過剰になったり不足になったり…と、いまいち不安定のようです。マニュアルにもJPEGでは適切な補正にならない場合があるから必ず試し撮りをしろと書いてあります(ぉぃ)。

ただ実際にいろいろ試し撮りをしてみたところ、D3の頃に過剰補正が出て反省した影響か、D750ではずいぶん控えめな補正になっているような印象をうけます。すくなくとも筆者の機体では過剰補正というのは見られません。筆者は当初はこの機能を OFF にしていましたが、現在はまあ悪くはなかろうと判断して ON で様子をみています(^^;)



 

撮影後に補正について


さてここまでの話はハード的な内容に始終してきました。…が、デジタル時代になって写真をデータとして扱うようになると、事後の補正というのもある程度は考える必要がでてきます。なかでも周辺光量落ちは事後の調整作業の過程で "強調" されてしまう場合があるので、最後にそこに少々言及しておこうかと思います。



中でも代表的なものがレベル補正の影響です。この例(↑)はちょっとアンダー露光気味に撮ってしまった写真をPC上で明るくしようとしたものですが、こういう処理をすると周辺光量落ちのコントラスト分も一緒に引き伸ばされて、現象が派手にみえるようになります。こういう状況は、あとからやはりソフト的に補正してやらないと救えません。




ありがたいことに、昨今では周辺光量落ちの補正ソフトは潤沢に出回っています。上の画面は Photoshop CS6 のフィルターのひとつ 「レンズ補正」 ですが、こんなふうに補正ツール上でパラメータを設定すればある程度の救済は可能です。

Photoshopは少々お高い系のソフトなので敬遠する人もあろうかと思いますが、似たような処理のできるソフトは有償から無償までいろいろ出回っています。周辺光量補正は画像処理の中では比較的単純な部類で、画像ビューワのおまけ機能として搭載されていることもあります。このあたりはもう、好きに選んで使って頂ければよろしいでしょう。