写真紀行のすゝめ:撮り方とか


コンデジでお手軽に水中写真を撮る


今回は水中写真について書いてみます。…といっても、デジ一眼+ハウジングという本格的な話ではなく、あくまでもお手軽にコンデジで行ってみようというお話です。撮り方の説明というよりは "使ってみたらこうだった" というインプレッションとして読み流していただければと思います。



意外に使えるコンデジという選択


さてこのサイトでは 「写真紀行をするならデジ一眼で」 という立場で書いておりまして、コンデジは補完用という位置づけです。しかし水中写真をお手軽に撮ろうとすると、デジ一眼+ハウジングでは予算的にハードルが少々高すぎ、筆者のような貧乏人には手が出ません(笑) そこで水中用コンデジの登場となる訳ですが、最近の機種はなかなか使えるレベルに仕上がっていて面白いのです。そこで実際に運用してみるとどうなのよ、というお話を書いてみようと思います。




なお筆者はあまり特定のメーカーに偏らないように気を付けているつもりではありますが、使ったことのない機種について語るのは無理がありますので最初にネタばらしをしておきましょう(^^;) 本稿では海編では PENTAX Optio WG-U、川編では Nikon Coolpix AW110 で撮った写真を使っています。実売価格帯で2〜3万円くらいの機種です。

最近はコンデジの市場がだんだんスマホに侵食されてきて、カメラメーカーは特色のあるニッチ分野に製品シフトをかけています。そのうちのひとつが水中(にも対応した)カメラで、水中専用ではなく一般の景色の撮影にも使える便利グッズということで人気を博しているようです。

水中用コンデジの特色は、一般的なコンデジと比較した場合、概ね以下の2点に集約されます。

@ レンズが飛び出さない

これは防水のためにレンズの繰出し機構を外側に伸ばせない制約によります。そのため水中用コンデジはズーム倍率がやや控えめになっています。 しかし後述しますが水中では水による "青かぶり" が生じるので、実はズーム倍率を高くしてもあまりご利益はありません。

A 密閉度が高く開閉部の作りがゴツイ
 
これも防水のためです。頑丈なツメのついたフタには、太いゴムパッキンがついています。また電気的な端子は必要最小限のものがフタの内側に設けられるのみで、外部には露出していません。おかげで外観はスッキリしています。

それ以外は一般的なコンデジとあまり変わりません。




■ 川での使い勝手


…ということで、勿体ぶらずに実際の使い勝手について書いてみましょう。まずは川での撮影事例についてです。筆者は山国育ちなのでかなり源流域の川で撮っています。水はそのまま飲めるくらいの水質のところです。



まずは何も考えずにドボンと水に入れてシャッターを押してみると、こんな絵が撮れます。最初にこれを見たとき、筆者は 「こんなに綺麗に写るのか!」 とちょっと感動してしました(^^;)。AFもきちんと合いますし、露出もオートでまずまず。操作に特に難しさは感じません。…凄いじゃないですか、最近のコンデジは♪




水面を見上げるとこんなふうに見えます。水の屈折率は空気を1とすると約 1.33 ほどあり、空気層と水の層の境界を挟んで光線は曲がります。水面から向こう側が見えるかどうかは仰角に依存し、物理的にはスネルの法則というのがあって、反射と透過の臨界角=48.6度を超えるかどうかで水面上の景色がみえるか水底が反射して見えるかが切り替わります。

自然の川では水面はつねにさざ波が立ったような状態にあり、その微小な水面の凹凸具合が反射角に反映して、光が透過する/しないが幾何学模様のようになって見えることになります。これはなかなか綺麗です(^^;)

※ついでながら水の屈折率が1.33というのは、空気中に比べると景色が3割ほど近くに寄って見えることを意味します。たとえば焦点距離28mmのワイドレンズは、水中では37mm相当の写りとなります。ゆえに水中で広角気味の写真を撮りたい人は地上よりも一段広角側に寄ったレンズを用意しなければなりません。今回は "なんちゃって水中撮影" の記事なので詳しくはツッコミませんけれども、水中用カメラが機種によっては広角24oなどコンデジにしては広角寄りになっているのには、そんな背景があります。




ところでよく漫画やアニメでは水中でゆらゆらと景色がゆがむような表現がありますが、実際にはかなり高速で水流が流れていてもゆらぎのようなものはありません。画面がゆらぐのは屈折率に粗密がある場合で、具体的には海水と淡水の混じる河口や湾、水中で温泉などが湧いているところなど、同じ "水" でも密度の異なるものが共存している領域になります。




AFの距離感、青かぶりなどについて




水中では、水の透明度にもよりますが直線距離で3〜5mくらいから水に特有の青かぶりが見られるようになります。青かぶりの生じた遠景はコントラストが落ちてAFもピンを拾いにくくなり、さらには暗くなるので手ブレも起こしやすくなります。水中カメラであまりズーム倍率を稼いでも意味がないと言われるのはこのためです。またAFは水がバシャバシャと泡だっているところでは手前にある泡を拾ってしまうので、あまり激しく水遊びをしているようなシーンでは注意が必要でしょう。




青かぶりについては強制的にフラッシュを焚くことである程度の解消ができます。しかし水中に浮遊物があるとそれが白く浮かび上がってしまうので、フラッシュ技は 「よほど水質の綺麗なところ限定」 と考えたほうがよさそうです。上の事例は温泉の露天風呂の湯船の底ですが (そんなところで撮るなよというのは置いておいて ^^;)、湯の花の成分が真っ白に光ってしまってあまり美しい絵にはなりませんでした。こういうところは気を付けたいところです。




水中コンデジは冷やしすぎに注意


ところで川遊びで撮影する場合、特に冷水域ではレンズ曇りに注意する必要があります。温水プールなどと違って、山間部の渓流や湧水のあるところでは夏でも冷たい水が流れていることがあります。

水中コンデジはこういう冷たい環境には不向きです。冷水中で水中写真を撮っていると、実はかなりの高確率でレンズが曇ります(^^;) 曇るだけでは済まずにいきなり電源が落ちて無反応になることもあります。これはえらいこっちゃです。

この原因は筐体内部で発生する結露にあります。カメラ本体が冷やされると、筐体内の空気に含まれる水分が露点を下回って、水滴になってしまうのです。これがレンズ表面で生じると曇りになり、電気基板上で起こると誤動作や突然の電源落ちにつながります。冷水中でなくても、温度が急変する環境 (冷房の効いた部屋への出入りなど) でも結露は生じる可能性があります。

結露は一般のデジカメでも起こる現象で、対処法はボディの温度を気温に馴染ませる(温める)ことで内部の空気を露点より高温側にもっていく、または筐体内を乾燥させる(温風や乾燥空気にさらす)などの方法があります。あまり深刻な状態でなければ、電池を取り出して(→通気スペースをつくる+電源事故防止)、フタをあけたまましばらく放置すれば復活します。クルマでエアコンの温風に当ててもよいでしょう。

ただ水中デジカメは防水構造のため通気性がきわめて悪く、水が抜けにくい特徴があります。筆者の経験上は、フタ解放+放置で曇りだけなら数分、電源落ちした状態だと懐で体温程度まで温めてから天日干し(笑)して30分以内に復活できればラッキーといった感覚ですが、そこで撮影が一時止まってしまうのはやはり痛手です。とにかく運用上は "冷やしすぎない" ことに注意し、また冷水中ではあまり連続稼働させないよう、うまく管理しましょう。

※筆者的にはこの問題は運用だけで対処するには厳しいかなと感じていますので、メーカー側に技術的に解決してほしいと思います。特に電源落ちに関しては、パーツ実装後の基盤を樹脂コートするだけでずいぶんマシになるんじゃないかと思うのですが、どうなんでしょうねぇ…(´・ω・`)




■ 海での使い勝手


さて続いては、海での使い勝手についてです。ここでは沖縄(久米島)の海でシュノーケリングで使用した事例を紹介します。基本的な撮影要領は川の場合と特に変わりません。本格ダイビングの場合には10m以上潜るので強力なフラッシュが必須になりますが、まあ水面近くでシュノーケリングで遊ぶ程度なら、普及品の水中コンデジ単体で充分でしょう(→つまり余計な追加装備はいらない)

お試しした場所は右図のようなところです。日射は非常に強く、SPF50+の日焼け止めを塗っても腕時計の跡がつくくらいに日焼けする環境でした。何も考えずに海パン一丁で海に入ると肌が焼けて大変なことになるそうで、筆者は渡船業者の中の人にTシャツを着て海に入るよう勧められました(^^;) …まあそれはともかく、亜熱帯では気温と水温が非常に近いので、冷たい渓流よりはカメラの扱いは楽といえそうです。




さて何も考えずにドボンと水中に入って撮影するとこんな感じです。下地が白砂だと光が綺麗に写りますね。ただし川と違って海は奥行きが非常に長いので視線を水平にむけると青かぶりも強めになります。




水面を見上げると、川と違って非常にゆるやかな波が来ており、水面反射の変化も長周期です。この写真では、青く見えるのが水面より上の空、白っぽくみえるのが海底の砂地が反射したものです。計算上は臨界角=48.6度とはいっても、感覚的にはほとんど垂直にカメラを向けないと空色は見えないという印象です。




この空の見える領域は、カメラをもっとずっと深いところにもっていくと丸い窓のようにみえます。いわゆるフィッシュウィンドウというやつで、魚はこの丸い領域を通してのみ、水面上の世界を見ることができます。

ちょっとインテリなフライフィッシャーの方などは、この理論を応用して魚の見えない位置からフライキャストするにはどうするか…などを考えたりするのだそうですが、いやー、奥が深いですね♪



 

液晶モニターは実は役に立たない?(笑)


さて話をカメラ側に戻して実際の操作感についてですが、浅瀬では液晶モニターはほとんど役にたちません。構図がどうとかいう以前に何が写っているのか見えにくく、結局は大雑把に目標にカメラを向けてシャッターを押しまくるという撮り方になってしまいます。

…というのも、海岸の日射というのはやはり非常に強烈で、モニターの輝度は完全にパワー負けしてしまうのですヨ。画面上でできるのはせいぜい起動しているかどうかの確認と、目の前に巨大な珊瑚の塊があればなんとなく識別できるくらい。魚は…うーん、大きさにもよりますが、1mくらいまで近くに来れば見えるかどうか…これは正直なところ、とても悩ましいです(^^;)

ダイビング系の人に聞くと、ある程度の水深まで潜れば周囲が暗くなり、画面の見え方に問題はないけれども、水面近くでシュノーケリングする場合はフードを付けないと厳しいだろうとのことでした。…といってもコンデジで液晶フード付きの商品というのは見かけませんし、手で影を作ってもあまり状況が改善する様子はないので、浅瀬での撮影はやはり大雑把に見当をつけての 秘儀・心眼乱れ撃ち (なんだそりゃ^^;)で挑むのが現実解のような気がします。

上の写真の人は、一見するとカメラのモニターを見ているようですが実は違います。まず目線で珊瑚を捉えて、目と被写体(珊瑚)の軸線上にカメラを持ってくるという撮り方をしています。細かい構図は確認できないためカメラを少しずつ上下左右に振りながら何カットも撮り、あとから具合のよいショットを探すのです。これが秘儀・心眼乱れ撃ちの奥義(ぉぃ ^^;)

…まあツッコミどころ満載かもしれませんけれども、明るすぎる環境下で光学ファインダーの無いカメラを使うと、どうしてもこんな感じになってしまうと思います。

※陽光下でも液晶はまったく何も見えないわけではないので、人によっては 「現在のモニター輝度で十分」 という人もいるかと思います。まあこのあたりは感覚次第でしょうか…(´・ω・`)



 

魚は、どう撮る?


ところで珊瑚礁の海に行ったら、カラフルな魚も取ってみたいところです。…が、これはもう、青被りとの戦いになります。最初は魚との距離感について戸惑うかもしれません。



結論から言うと、横着して遠くからズームで狙うのは下策、面倒がらずに被写体に近づくのが上策です。遠くから撮っても結局は青かぶりで魚のコントラストはうまく捉えられません (…というかほとんど見えない ^^;)。カメラのレンズは広角いっぱいに寄せて、自分から魚に寄りましょう。

※広角(ワイド)側にすると手前から奥までピントが合いやすく、また像が明るくなって手振れリスクが減ります



寄るのが難しそうな場合は、撒き餌で釣ります(笑) これ(↑)は料理で使う麩(ふ)で魚を誘っているところです。写真のタイミング的には空が曇ってしまい、陽光が足りずに明瞭感がいまひとつですが、まあそこはそれ(^^;) こういう場面ではフラッシュを焚いてもよかったかもしれません。




こちらは日差しが十分あるときの写真です。腰くらいの深さの場所でじっと動かずにいると、魚は人間を丸太が浮いているくらいの感覚で無視してくれるのか、自然に近くを泳ぎ回ってくれるようになります。筆者的には波打ち際で水死体のポーズ(笑)で待ち構えているときが、一番収率が良いように思いました。…もちろん 「こんなのでいいのか?」 とは思っていますので(笑)、もうすこしマシな方法論を開拓したら、また書いてみようかと思います(^^;)



 

忘れちゃいけない "塩抜き"


さて楽しいひとときが終わって撤収…の前に、水中デジカメでは必ずやっておかねばならないことがあります。それは塩抜きです。

塩抜きとは海水中の塩分を抜くことで、真水にドボンと浸けて、機材表面に付いた塩分を溶かしだします。水に浸ける時間は可能であれば30分程度、移動時間の都合等で無理そうなら、暫定で真水のシャワーをかけておくだけでも効果があります(その際は後でちゃんと水に浸ける儀式が必要です)。

どうしてこんなことをするかというと、海水から引き揚げたままの状態で機材を乾燥すると、スイッチやネジ、ノッチ、パッキン(O-Ring)等の周辺に塩の結晶が固着して、砂粒が入り込んだような状態になってしまうからです(ダイビング用語では "塩噛み" といいます)。また塩分は腐食の原因にもなり、機材の寿命を縮めます。だから早めに除去しておいたほうがよいのです。

真水から上げたら、よく乾燥させて、塩の固着のないことを確認しておきましょう。



…ということで、なんだか偉そうな書き方になってきたので、今回はこのあたりで締めに入りましょう(汗 ^^;)

水中コンデジを実際に使ってみると、冷たい環境に弱かったり、直射日光の強い環境でモニターが見えなかったり…と、いろいろと制約があるのがみえてきます。ただ普及価格帯のコンデジに過剰なタフネスさを求める訳にも行きませんし、どこかでコストと性能のバランス点は探らねばなりません。我々ユーザーサイドとしては、弱点は弱点と認識して、楽しく使っていく方策を考えるべきなのだろうと思います♪

そのような次第で、今回はここまでです。