写真紀行のすゝめ:ハードとか


マウント選びで将来が決まる


今回はどうせ投資するなら失敗しないように…というお話で、マウントと撮像素子のサイズについてです。とにかく最初の1台が肝心だと思うのですよ。(2024.10.06更新)




マウントで決まる将来性


デジ一眼(ミラーありでも無しでも)はカメラメーカー毎にマウント(=レンズを取り付ける土台の部分)の形状が異なります。たいていはバヨネット式といってメカ的な爪を合わせてはめ込み、カチリと回転させて固定しますが、爪の形状や電子制御用の端子はメーカー毎に独自の仕様になっています。マウント形状はそのメーカーの開発史を引きずっていて、デジタル化以前(フィルム時代)からそもそも互換性はありません。

カメラを購入する場合、このマウント(つまりボディメーカー)選びは重要です。ボディにキットレンズを1本付けっぱなしにしているうちはなかなか意識しませんが、そのうち表現の幅を広げたくなって望遠やら広角やら…とレンズを買い足していくと、それが資産となっていくからです。一度資産を形成してしまうと途中からメーカーを乗り換えるのは困難になっていきます(というか勿体ない)。

こうしていつの間にか特定メーカーの製品群をいくつも所有することになった人を、世間では "○○党" (メーカー名が入る) などと呼んでいます。なかには特定メーカーに本気で心酔してそうなった人もいるでしょうけれど、大抵の場合は最初に購入したカメラに合わせて惰性でそうなっていきます。筆者の場合は最初に買った一眼レフ (フィルムカメラ) が Nikon F50 だったので、惰性で(以下省略)w

※自前でカメラボディを作らず交換レンズを主に供給しているメーカーもあります。この場合、たとえばボディだけニコンでレンズは全部タムロンだ(^^;)という人も便宜上ボディを基準にニコン党に分類されるのが普通です。




安いからといってマイナー機種に飛びつかない


マウント(ボディメーカー)選びは少々シビアに考えましょう。単に安いからという理由でよく考えないでワゴンセール品に飛びつくと、マイナー機の悲哀に泣くことになるかもしれません。そういう商品は開発力に乏しかったり市場シェアの低いメーカー品である場合が多く、周辺機器の選択肢も乏しくせっかくの拡張性を生かせません。また激安品はしばしば事業撤退したメーカーの在庫処分品だったりもしますが、この場合は将来性などはそもそも無く、周辺機器を揃えるどころか不具合発生時のサポートすら怪しいものです。資産を形成しながら長く付き合っていく可能性がある以上、やはり安定して売れているメーカーや商品系列を選んだ方が無難です。

では売れ線とは何か…といいますと、筆者の場合特定のメーカーをヨイショするといろいろと仕事上のシガラミがあるので書きません(笑) 幸い現在は店頭での売れ線情報がBCNランキング等でほぼリアルタイムに確認できますから、そこで比較的上位に出てくるメーカー、機種を選んでいればまあ大ハズレはないと思います。




フルサイズかAPS-Cか


マウントの他には撮像素子のサイズも将来性に影響します。

同じマウントに取りつくレンズでも 35mmフルサイズ用と APS-C用の系列があり、カタログ(※)を見るときには注意が必要です。

※メーカーによっては独自の名称を使っていることもあります。たとえばニコンでは35mmフルサイズをFXフォーマット、APS-CをDXフォーマットと呼んでいます。

 カメラ側の撮像素子  使用できるレンズ
 35mmフルサイズ  ・35mmフィルムカメラ用レンズ(フルサイズ)
 APS-C  ・35mmフィルムカメラ用レンズ(フルサイズ)
 ・APS-C用レンズ

フルサイズ用のレンズはイメージサークル(センサ面にピントをむすぶ像の有効径)が大きいので、センサがひとまわり小さいAPS-C機でも利用できます。逆にフルサイズ機にAPS-C用レンズを取り付けた場合は、物理的にレンズは取り付きますが周辺にケラレ(黒い影)を生じることになり、実質的に使い物になりません。つまりAPS-C機用のレンズ資産を積み上げてきた人は、フルサイズ機に乗り換える場合は今までの資産を活用できない(※)ことになります。

※機種によってはクロップ処理といってセンサの中央付近の画素をデジタルズームの要領で読み出すことでAPS-C 用レンズを使えるものもあります(それだとわざわざフルサイズ化した意味が無くなりそうですけど)




フルサイズ/APS-Cのシェアは?


さてデジ一眼でフルサイズ機が普及し始めてもう随分たちますが、前項に掲載したランキングをもう一度よくみると、売上の上位は圧倒的にAPS-Cであることがわかります。



35mmフルサイズの画像センサが普及し始めたころ、APS-Cは過渡的なものであってそのうち皆フルサイズに移行するのだ~……などと盛んに言われていました。しかし市場の見えざる手は結局APS-Cに勝者の軍配を挙げたようです。




ところで、どうしてデジ一眼はAPS-Cばかりなの?


ところで35mmフィルムカメラを母体にして開発された筈なのに、どうしてデジ一眼の撮像素子は35mmフルサイズではなくひとまわり小さいAPS-Cが主流(2024/09現在)なのでしょう。これは非常に単純で、市場の立ち上がりの時期に生産上の都合で歩留まりの良いサイズのセンサが普及してしまい、事実上の標準になってしまったからです。

実はカメラの撮像素子は一般的な半導体製品(CPU、メモリなど)と同じ縮小投影露光装置で生産されています。専用の量産装置がある訳ではなくCPU、メモリ用の装置を流用してちょっとだけカスタマイズしている訳です。直径300mm、厚さ1mm弱の円形のシリコン基盤にちょうど切手シートのような形に回路パターンを焼き付けて、いわゆるリソグラフィの手法で密集したトランジスタの列を作り、その上にやはりリソグラフィでカラーフィルタを形成します。この切手の1枚1枚が、切り離されて撮像素子としてカメラに組み込まれています。

この露光装置の画角はある共通規格があってサイズが決まっているのですが、APS-Cのサイズはちょうど1発で露光が完結できる大きさなのです(厳密にいうともうひとまわり大きなAPS-Hまでぎりぎり入る)。これを35mmフルサイズで作ろうとすると露光装置の対応サイズを超えてしまい、一発露光で完結できません。そこで1枚のセンサを右半分、左半分と2回露光して継ぎ目部分の品質をシビアに管理するような作り方をするのですが、これだと生産性はなかなか上がらず、歩留まりもAPS-Cには及びません。既に量産効果で品質も安定しコストも下がったAPS-C機に対しフルサイズ機の価格帯がなかなか降りてこないのには、そんな理由もあるのです。

※ちなみに撮像素子の量産ラインを立ち上げるには建物一棟で1000億円くらいかかります。ざっくり言ってイージス艦一隻分♪既存の半導体量産設備の流用でこの費用ですから、フルサイズ専用露光機がなかなか開発されないのも頷けます。

普及型の35mmフルサイズ機はAPS-Cに遅れること約8年で市場に投入されましたが、既に先行して普及してしまったAPS-C機の市場を脅かすには至らず、さらに10年が経過してもAPS-Cの優位は変わっていません。もはやこのサイズが事実上の標準と理解して良さそうな気がしますね(笑)

…ということで、市場の様子を眺めた後は、手元にあるカメラでいかに楽しく写真紀行を撮っていくか、という話をしていこうと思います。