2012.11.04 紅葉の日塩もみじラインを行く:後編(その2)




■大曲り




さてここからは温泉街中心部はスルーして、いよいよ日塩もみじラインに入っていく。

もともとは逆杉のあたりからそのままもみじラインに接続していた道路が現在では改修されて新R400となっており、尾頭峠に向かうバイパス路となっている。もみじラインは小田ヶ市の付近から分岐して山を登っていく。




もみじラインに入って最初の見どころは、大曲(おおまがり)である。急峻な斜面を登っていく入り口付近にあたり、Rのきついヘアピンカーブが二連続している。ここに楓の群落がある。

大曲の地名の起こりは明らかに街道の九十九折(つづらおり)具合によるものだろう。この奥には江戸時代の万治年間に発見されたと言われる新湯温泉があり、また塩原最古の開拓地=八郎ヶ原もあって古くから街道が通じていた。現在は自動車道路として整備されてしまっているのでかつての正確な道すじは分からなくなっているが、万治2年の地震で元湯が壊滅するまでは塩原の中心は現在の上塩原〜元湯の付近にあり、箒川の対岸には要害城があった。そういう意味ではこちらのほうがよりメジャーな立地であったといえそうだ。

ちなみに現在の古町〜門前〜畑下〜塩釜〜福原といった塩原の中心的な温泉街は、地震の後に元湯の住民が移り住んで開発されたものだ。新湯は最後まで元湯の復興をあきらめなかった人々が、二度目の地震で再度集落が土砂に埋もれたことから元の場所での復興をあきらめて移り住んだという経緯がある。




さてこの付近に公的な駐車場は無いのでクルマは路肩に停めるしかないのだが、ヘアピンカーブにあまりにも多数のクルマが止まっていると渋滞の元となってしまうため、最近は実質的にクルマガード(?)の役割をもったベンチなどが設置されてしまった。行楽客で混雑の始まる午前9時頃より前であれば比較的停めやすいが、10時を過ぎるとちょっと厳しくなってくる。




…そんな訳で頭上を見上げてみるのだが、これがまた素晴らしい色なのである♪ヽ(・∀・)ノ




色付きの早い個体、遅い個体が入り混じっているため、さながら錦絵のような景観になっている。下から見上げると、それが透過光によっていっそう鮮やかにみえるのだ。




気温データを見ると、ここでは最低気温が5℃をわずかに下回る程度の状態が持続しているらしい。理想的にはもう少し冷えたほうが色付きはスムーズにいったのかもしれないが、それはまあ結果論だな。

ちなみに色付きの渋かったもみじ谷大橋付近と何が違うかと言うと、標高差によるオフセットが1.5〜2℃くらい乗っているだけである。たったこれだけの違いが、この色具合の差を生んでいる。境界線は、やはり5℃付近なのだろう。

 


葉を光に透かしてみると、葉緑素が分解して黄色味を帯びたのちに、赤色のアントシアニンが合成されて徐々に赤味を帯びていった様子がまだら模様としてみえている。紅葉は、まだ現在進行中であるらしい。




それをロングで撮るとこんな絵になる訳だ。

…塩原の紅葉は、やはりこの色が出なくては 「見た」 という気分にならないヽ(´ー`)ノ




しばらくマターリしている間に、同類であるらしい行楽客が増えてきた。時計も9時を回って、そろそろ大型観光バスなども上がってくる時間帯だ。…ということで、先を急ぐことにしよう。



 

■新湯




大曲りから先は、八郎ヶ原を横目にずんずんと登っていく。路面が濡れているのは昨夜の雨の影響らしい。夕刻、本日とは逆向きに高原山塊を越えてくるときに、筆者は雨に遭遇した。大した雨量ではないと思っていたが、これだけ濡れているということは筆者が通過してからもしばらく降っていたのだろう。




途中、色付いた木々は次々と現れるが、やはり一番鮮やかなのは楓の仲間である。




足元をみると、散った葉もまたいとをかし。




さてまもなく新湯に到着した。標高は940mあまり、塩原温泉郷では最も標高の高い所にある温泉である。本格的な開発は江戸時代初期の万治2年(1659)以降で、地震により壊滅した元湯の住民が移転して温泉場とした。現在では宿数4件の鄙(ひな)びた温泉地である。




ここは高原山塊の側火山である富士山の裾野にあたり、爆裂火口脇から湧いている硫黄泉を引湯している。PH2.2、湯温59℃と強酸性の熱い湯で、実は草津温泉に匹敵する殺菌性の強い泉質である。




本日の筆者のお目当てのひとつは、実はここの共同浴場を堪能することであった。名を寺の湯という。その名の通りここには昔寺(円谷寺)があって、その寺の浴場跡が今でも利用され続けているのである。




共同浴場といっても御覧の通り、小ぢんまりとした掘立小屋みたいなものである。男女の区別はなく混浴で、湯船は2つあるがそれぞれ3人も入れば一杯…という小さなものだ。しかしこれがひそかに人気があったりするのである。




…が、案の定というか何というか、先客で既に湯船は占領されており、写真も撮りにくいのであっさり撤退(^^;) うーん…何度来ても湯に浸かることが叶わないという点では、幻の秘湯だな…w




仕方がないので湯煙だけ堪能して我慢しよう。むうう。



 

■料金所を越える




…そんな訳で、いよいよ料金所を越えていく。

と言っても料金を徴収しているのは出口側だけなので、入るときは完全スルーである。料金所前にはちょっとした休憩スペースがあり、売店の屋台などが並んでいた。結構な人が立ち寄っているようだ。ちなみに筆者の密かなお勧めは、熱々の 「じゃがバター」 だったりする。




料金所をすぎるともう日光市側の鶏頂開拓まで人家は無い。塩原側の料金所は既に標高970mと日塩もみじライン最高点の8割くらいまで登ったところにあり(※)、もう少し季節が進んで山頂付近の葉が散ってしまうと実質的に通る必然性がなくなってしまうのだが(笑)、今日のところは絶好調の色具合でもあり越えてくる人は多い。路肩に愛車 X-Trail を停めて撮影などをしていると、びゅんびゅんと追い抜かれていく。

※おそらくは道路整備時に新湯温泉に配慮してゲート位置を決めたものだろう




見渡せば、楓の "赤" に圧倒され気味ではあるけれど、白樺などの "黄" もなかなかにイイカンジに染まっていた。これはこれで非常に美しいのである。もしここが楓の少ない路線だったら、道路の愛称は "日塩白樺ライン" なんて名前でも良かったかもしれない。




実をいえばもみじライン周辺では、絶対本数では赤く染まる木々よりも黄色く染まる "黄葉" の木々のほうが多いくらいなのである。しかし黄葉の木々は色づいている期間が楓に代表される赤い木々よりも短く、すぐに枯葉色になって散ってしまう。




その点、楓の赤は人の目に留まりやすく印象が強く残る。しかも紅葉の寿命が長いので、黄葉系の木々よりも色持ちが圧倒的によい。




そんな事情が、紅葉といえば楓…という風潮を生みだしているのかもしれないな。




…さて、そろそろハンターマウンテンスキーだ。


<つづく>