2017.04.16 那須の桜を眺める(その3)




■ 小結〜西岩崎〜道の駅:那須高原友愛の森




黒磯公園を出たのちは鳥野目公園をかすめながら小結を経由して西岩崎から広谷地を目指す。とりあえずの目的地は道の駅:那須高原友愛の森としよう。




鳥野目を過ぎて田園地帯を抜けていくと、農地の中にちらほらと桜の木が点在している。開拓農家が土手に植えたもののようで、防風林が目的なら常緑樹である杉などを植えるであろうから、まあ鑑賞用なのだろう。




・・・といっても、モノによっては雑木に埋もれつつあり、あまり手入れがされている印象はない。まあ細かいことは言わずに愉しむのが吉かな(笑)




走りながら見ていると、やはり桜の木は人の住む集落の周辺に多く、開拓されていない自生林では少ないようだ。桜は日本の山林で自生種が多いと言われているけれども、少なくとも那須野ヶ原では人が植林したものが数としては優勢ということなのだろう。




さてそんな訳で、いよいよ道の駅:那須高原友愛の森にやってきた。




お目当ての桜は・・・うーん、二〜三分咲きくらいか。




ここの標高は約470m、満開だった黒磯公園が同300mで、標高差による温度勾配は約1℃くらいになる。しかし1℃とは言っても咲き具合にはちゃんと反映しているようだ。

まあ本日のところは、ここが桜の開花している最前線ということかな。




桜以外の花では、パンジーがいい感じで咲いていた。パンジー類は桜より開花が早く、花もちも良いためレストランなど店舗の入り口で春を演出するのによく使われる。ぼちぼちチューリップも咲き始めてこれからが楽しくなりそうだ。




・・・とはいえ、まだ人出は本格的な観光シーズンに比べるとまだまだ少ない。本格的に人の往来が増え始めるのは、おそらく来週あたりからだろう。




■ 那須ファミリースキー場へ




さて桜レポートとしてはここでおしまいにしても良いのだけれど、筆者はもう少し足を延ばして茶臼岳方面に登っていくことにした。




わざわざ雪の茶臼岳に向かったのは、2週間ほど前の雪崩事故の現場を訪れたかったからだ。  3/27の朝、春山安全登山講習会に参加していた高校生約50名が茶臼岳で雪崩に巻き込まれ、死亡8名、重症2名、中/軽傷38名という大災害となった件である。

死亡したのは全員が大田原高校の生徒/教員であった。直接的な面識はないけれども筆者は同校のOBなので、遠い後輩にあたる彼らにせめて桜の便りを届けてやりたいと思ったのである。




一時期は雲霞のように群がっていたマスコミもニュースの旬が去ると誰もいない。まったくもってイナゴみたいな連中だが、居たら居たで面倒なのでこれでいい。




慰霊所はスキー場入口から樹林帯を100mほど抜けた小丸山展望遠地に設けられていた。少々わかりにくい立地ではあるけれども、ここからはちょうど遭難現場を見通すことができる。

焼香台にはまだ火のついた線香が10本ほどあり、心ある方々が多く訪れているようだった。筆者も線香を上げ、しばし故人の冥福を祈る。




その後はゲレンデに回って少し奥側に進んでみた。

聞けば雪崩は2方向に発生し、犠牲となった生徒たちを直撃したのは南側の崩落分だという。できればその現場までアプローチしたかったけれども、急斜面部はまだ登るには雪が深そうで、筆者は現場を見渡せるところまで進んで一礼をし、先ほどのテキヤで買ってきた大判焼きと、途中の道端で失敬してきた桜の小枝を供えた。



母校の校庭の桜ではないけれども、まあひとまずはこれで我慢しておくれ。インド人であるお釈迦様の好みは蓮の花。でも日本の心といえばやはり桜がふさわしかろう。



 

■ ロープウェイから見る風景




その後はもうすることもなく、せっかくだから・・・とロープウェイに乗って残雪を眺めてみた。時刻はもう午後2時近く、駅舎内では雪が深いので山頂に向かうのはおやめなさいとのアナウンスが流れている。

ゴンドラ内の係員氏に 「雪崩事故の影響はありますか」 と聞いてみると、今年は雪が多いので特に注意喚起しているとの説明があった。




「雪が黒っぽく変色している所があるでしょう、雪崩はあそこを起点にして始まるのです」 と氏は言った。変色部分は雪が解けはじめた所で、春先の全層雪崩(※)はこういうところから始まるらしい。3/20頃から営業しているロープウェイでは至近距離でこのタイプの雪崩を見る機会が多いという。

天気予報で 「雪崩注意報」 などと聞いてもなかなかピンとこないけれども、こうして山をフィールドに仕事をしている人から見れば、雪崩は日常風景であって決して珍しくはないのだな・・・

※先日のスキー場で発生した雪崩は表層雪崩で、メカニズムが少々違う




遠くをみれば残雪が美しいマーブル模様を描いていた。人身御供を8人も取って満足したのか、那須の山々はただ黙々と雪解け水を供給する恵みの山へと姿を変えつつあるようだった。




一通り眺めて下界に戻ると、そこはふたたび桜の季節、春麗(はるうらら)。なにもかもが穏やかで、花は静かに咲いている。人も草木も、あるいは虫も鳥も、これから賑やかになっていく。

・・・そんな季節なのだな、と筆者は改めて思ってみた。

<完>