2017.07.03 西表島で休日を




西表島で主体性のない休日を過ごしてきました (´・ω・`)ノ



さて今年の夏(というか記事を描いているのはすっかり秋を通り越して年末なのだが^^;)は記録的な天候不順でさっぱり夏らしい青空が望めず、筆者自身も公使ともども出かける余裕がないので、これまで記事にしていなかった過去の撮影記録(2010年の同じ日付)からレポートを書き起してみようと思う。行先は西表島(いりおもてじま)である。

沖縄本島の南西方面に点在する八重山、宮古、尖閣の各諸島をまとめて先島諸島と呼び、西表島はその中で最大の島である。面積は東京都23区の半分弱にあたる290平方キロ、沖縄県では沖縄本島に次ぐ面積があり、しかしながら人が住んでいるのは海岸沿いのごく一部のみで大半は未開のジャングルという島だ。人口は2000人あまりで、都内であれば通勤電車1本ですべての人口が収容できてしまう。

さてそんな西表島だが、いつもなら訪問するに至った動機や経緯を述べるべきレポートの初段で、実は筆者には書くべきことがない。なぜなら当初筆者には、西表島に行く予定は全然、まったく、微塵もなかったからである(笑)



 

■ 本来なら波照間島に行くつもりだった!




さてこの日、筆者は日本最南端の有人島である波照間島に渡るつもりで石垣港に来ていた。

八重山群島には石垣島にしか空港がなく、近隣の島に渡るにはいったん空路でこの島に降りて船で散っていくしかない。筆者もその流れのなかにあって、南国の港をそぞろ歩きしていた。

日付は7月3日である。既に梅雨は開けており、天気晴朗にして風もなく、日本の最南端を極めて 「イヤッホーっ♪」 と叫ぶにはちょうど良い頃合いであった。そんなわけで筆者は、朝一番の連絡船に乗るべく、軽やかな足取りで海運会社のデスクにやってきたのである。




しかしどうにも様子がおかしい。見れば乗船を待つ人々が何やら険しい表情をしている。海運会社の係員氏も表情が渋い。

筆者 「どうしたので?」
係員 「・・・不吉じゃ、海の神様がお怒りなのじゃ!」
筆者 「大丈夫ですか(頭が)」
係員 「このままでは船は出せぬ、なんまいだ、なんまいだ・・・」
筆者 「なんまいだ・・・」
係員 「いや払い戻しのチケットが・・・」
筆者 「・・・ああ、そう(^^;)」


もし筆者が生粋の大阪人であったなら、ここで気の利いたボケだかツッコミだかをかまして即席の漫才が成立したかもしれない。しかし筆者はあいにくその種のスキルには乏しかったので 「こいつは困ったな…」 とごく常識的な困惑を覚えることとなった。聞けば潮の状態が悪く船を出せないらしい。




簡単に状況を説明しよう。八重山の島々は石垣島から西表島までは浅い珊瑚の海域が連続して内海のような状態になっている。ここは国内最大の珊瑚礁海域で、リーフ内にいるかぎりは波も穏やかだ。

しかし波照間島はこのエリアからは外れ、距離はそこそこ近いものの地形区分としては黒潮に洗われる外洋の孤島なのである。水を媒体とした地球規模の熱対流である黒潮は、熱源である南方の海では荒々しく振舞っており、八重山の島々はまさにそのど真ん中に位置している。船の性能の上がった現代であっても、そこはひろく難所として認識されている。

そのこと自体は筆者も承知している。ただ 「潮が荒れるのは主に冬季で夏場は安定している」 と聞いていたので、あまり心配はしていなかった。それがどうやら、本日は籤(くじ)運が悪い方に傾いてしまったらしい。

しばらく 「調整中」 とされていた出航表示は、やがて 「欠航」 に切り替わった。
うーむ・・・ツイていないな( ̄▽ ̄;)




さてそうなると、早急に第二志望を決めないといけない。今日は船旅を予定していたのでレンタカーは確保しておらず、このまま居残っても貴重な一日が無駄になってしまう。さりとてもう他の主要な便はほぼ満席になっている。そこで係員氏が満面の笑みでお奨めしてきたのが・・・

「では西表島はいかがでしょう?」

いやそれ、空いている便がそこしかないからだろ・・・との正当なツッコミは 「時間がない」 という現実の前には意味を為さなかった。 どのみち選択肢が無いのであれば 「後悔は転んだ後にしろ」 式に即断するのが漢というものであろう。

「下天中略是非もなし、・・・それで!ヽ(`◇´)ノ」




そんなわけで、ガイドブックも事前リサーチその他の一切の準備も無く、チケットだけ買って桟橋へ。出航は5分後だそうで、猛ダッシュで滑り込む。なんだこの予想外の展開はw

・・・ともかく、こうしていきなり筆者の西表島ツアーは始まったのであった。 どこかの冒険小説で 「予測不能は最高のアトラクション」 とかいう表現があったけれども、まさか自分がその立場になろうとは。




■ 西表島への道




そんなわけで即席弾丸ツアーの開始である。

筆者の選択したのは "やまねこツアー" なるローカルな旅行会社のクルーズ&バスツアーであった。いくつかコースが選択できるのだが土地勘もないので、売り子氏に勧められるままに無難そうな島内一周コースを選んでいる。

この時点での筆者にとっての西表島の知識はネコが有名というくらいで他にはない。普段なら事前にある程度のリサーチをして現地入りするところだが、今回はもう業者任せにするしかないのでこのへんは清く割り切ることにしたい。プロの選定したコースであるからには最低限のツボは押さえられていると信じよう。




さきほども触れたように、石垣島と西表島の間には、竹富島、小浜島、黒島を挟んで浅いリーフが連続している。

浅いところを走っている間は船もそこそこに安定しているのだが、リーフが途切れると途端に波が荒くなり、船の揺れが激しくなった。揺れと言っても尾體骨を直撃するような縦揺れで、例えるなら板子一枚のベンチに座っているところを鉄下駄で蹴り上げられるような素敵な乗り心地である。




露天のデッキに出ると水しぶきも相当に飛んでくる。沖縄本島から慶良間や久米島に行くのとは揺れ方がずいぶんちがっているな…と思っていると、隣の乗客氏がにわか解説をしてくれた。聞けば黒潮の流れているところは海面が周辺よりも盛り上がっているのだそうで、まだら模様に湧き上がった水塊にタックルするような形で船は進行していくらしい。




ふと反対側からやってきた高速船とすれ違った。それにしてもなんというハイパードライブ具合。




こちらはまた別の高速船である。やはり猛烈な勢いで走り抜けていく。このくらいのハイパワーで押し切らないと水塊タックルを勝ち抜くことは難しいようで、お行儀の良さは二の次という世界観が感じられる。・・・ほとんどボートレスじゃないのかこれw




あまりに揺れるので座席に戻ってみたが、水しぶきは容赦なく窓にも飛んできていた。これだと窓越しでは写真撮影は難しいので、筆者は結局展望デッキに上がって海を眺めることにした。




石垣港から西表島まではおよそ一時間。直線距離では30kmほどだが、船の速度はクルマより遅いので結構な時間を要する。といっても20ノットくらいは出ているようで、大日本帝国海軍の軍艦の巡航速度(16ノット前後)よりは速いペースのようであった。

視界はよく効いて風景は飽きない。飛行機で空から眺めるのと違って、船旅は水面を間近に見ながら行くのがいい。




やがて対岸の西表島が近づいてきた。入港するのは島の南東にある仲間港である。島の出入りはここともうひとつ、北部の上原港が拠点となっているが、観光ツアーでは潮流の安定しているこちらのほうに入港する船が多い。




そんな訳で無事に接岸〜♪




桟橋から上がると、おお・・・ツアーバスがズラーリと並んでいる。同じ船から降りる人々を見ていると、レンタカー屋に向かう人は少ないようでほとんどがツアーバスに吸い込まれていく(※)。

※そのココロは、レンタカーを借りたところで道路がほぼ一直線で支線が極度に少なく、バスツアーとくらべても大して自由度が変わらないという交通事情にあるらしい。




バスのシンボルマークは有名なイリオモテヤマネコであった。とりあえず、こいつに乗れということだな。よーし、どこへなりと連れて行ってもらおうじゃないか〜♪




■ ところで本日のツアーコースについて

 


さてここで、この日筆者のたどったコースについて説明してお行きたい。ツアー会社のパンフレットにも基本情報は書いてあるのだが、ぶっちゃけたところ市販のガイド本をあらかじめ読んでおかないと状況はつかみにくい。コースは大雑把にいって、

@ 仲間港 → 仲間川マングローブ林の見学クルーズ
A 由布島の植物園
B 西表温泉 (昼食)
C 星砂の浜
D 白浜港
E 上原港から石垣港へ


というもので、ミーハー的なハイライトは@Aになるのではないかと思う。シュノーケリングをやる人にはCも見どころになりそうだが、着替える場所はないので朝から水着は着たまま、泳いだ後は着干しになる。詳細は順に追って紹介していきたい。




■ まずは仲間川でマングローブ・クルーズ♪

 


そんな訳で、まずはマングローブ見学クルーズである。あれ?・・・さっきバスに乗ったんじゃなかったっけ・・・という鋭い指摘をかましてくれる諸兄のために説明すると、バスはまず港に隣接する売店を経由してクルーズ船のある向かい側の埠頭に移動するだけで大した距離は走らない。

ここから小型のクルーズ船に乗って、隣接する仲間川を6kmほど遡るのである。この仲間川流域は低湿地が広がって西表島で最大のマングローブ林が広がっている。ここをずんずんと遡って、サキシマスオウノキの巨木のあるところまで行ってUターンしてくるのである。




クルーズ船は浅瀬に適した底面の平らな船で、こんな感じのオープンデッキスタイルでゆるゆると走って行く。ちなみにこういう船でマングローブ林に接近できるのは沖縄県では西表島だけである。他の島では小さなカヌーに乗ってアプローチするのが普通で、入り込める場所が限られてしまう。そういう意味では、このクルーズツアーはとても貴重なものであるらしい。




コースにおける最初のランドマークは r215 の橋である。仲間川にかかる橋はこれ一本で、ここで川幅は300mくらいある。水の流れはほとんど感じられず、海水と淡水の混ざり合った汽水域ではあるのだが、まだほとんど海の延長線上みたいなところだ。




橋をすぎれば人工物はまったく目に入らなくなる。おお・・・まさに密林地帯の始まり♪




ただ河口に近い最初の1kmくらいはマングローブはちょぼちょぼといった感じでしか生えていない。この付近は隆起サンゴの岩が多く、根を張れるような泥地が少ないのだろう。




それが内陸部に入るにしたがって、岩場がなくなって泥や砂の低湿地になり、やがてマングローブの天国になっていく。仲間橋から500mくらい過ぎたあたりから写真映えしそうな景観が現われはじめた。




余談になるがマングローブとは固有種の名前ではなく泥のある海辺に繁茂する森林の総称で、日本近海では7種類ほどの植物が知られている。緯度が高くなるほど種類は減っていき、北限付近(日本では種子島)ではほぼメヒルギしかみられない。

※本州でも黒潮に面した海岸でメヒルギの群落がいくらか存在するが、多くは観光用途で植樹されたものといわれる




その点、西表島は北回帰線(※)にちかく、分類としては亜熱帯ということになるけれども植物相はほぼ熱帯で、マングローブ樹種は7種類すべてがみられる。奄美大島や沖縄本島にもマングローブ林はあるけれども樹種は少なく、微妙に雰囲気が違って見えるのは気のせいではない。ざっとみたところ西表島では背の高い木々が多い印象だ。

※北回帰線:夏至の日(6/21前後)に太陽が真上にくる緯度。筆者が訪れた日は夏至の12日後で、太陽はほぼ真上に近く赤道直下とあまり変わらない日差しであった。




クルーズ船はゆるゆると遡上を続けていく。

河口から2kmほども遡るとだんだん川幅が狭くなってきた。樹木の背が高いので視界は効かず、方向感覚を失いそうになる。水の流れはきわめてゆっくりしており、ゆえにいわゆる水音のようなものはなく、遠くで鳴く鳥の声と、風でざわつく木々の葉音が時々聞こえるくらいだ。




流れの淀んだところには、枯葉が浮いているのがみえた。

マングローブ植物は常に塩分にさらされているので、体内に入り込んだ余分な塩分を葉にあつめて切り落とす "脱塩" の仕組みをもっている。落葉というと日本本土では秋のイメージがあるけれど、ここでは一年中葉が落ちており、そのサイクルも早い。そしてこれらは水中で微生物に分解され、プランクトンの餌になったり、あるいはふたたび森の養分として循環している。




そんなわけで水の色を見る限りあんまり衛生的な感じはしないけれども、これはこれで自然の作用のうちなのである。 ちなみに都会のドブ川と違ってここでは腐臭のようなものはまったくなく、カヌーをやる人によれば転覆して多少水を飲んでも大丈夫らしい。




それにしてもマングローブの密生地というのは 「人を寄せ付けないぞ感」 がものすごい。




特に呼吸根と呼ばれる枝のように伸びた根が足元にびっしりと張り巡らされ、バリケードのように行く手を阻(はば)んでいる。大雨で幹が倒れたり流されたりしてもこの部分は長く残るのだそうで、これではちょっと上陸しようという気分にはならない。

八重山諸島では密林地帯の島よりも砂地基調の小さな島に集落が発達したけれども、やはり住みやすさを考えるとそうなるのだろうなぁ・・・(^^;)




さて仲間港を出てからおよそ30分、そろそろ底を擦りそうな状態になってきたところで・・・




おもむろに船着き場が見えてきた。 どうやらここが、クルーズコースの最奥部らしい。



 

■ サキシマスオウノキの古木




船着き場に着くと、ここからは徒歩で少々歩く。




やがてなにやら奇怪な外観の樹木に遭遇した。

これがランドマークになっているサキシマスオウノキ(先島蘇芳木)の古木である。板状の根が特徴的な熱帯木で、解説板によると樹齢は400年、高さは18mという。この樹種は通常10mくらいまでの個体が多いというから、18mというのはかなりの巨木である。

聞けば長い間密林に埋もれたまま存在を知られず、昭和57年に発見されたものだという。まだ天然記念物等の指定は受けていないようだが、往復1時間のクルーズで引き返すのにちょうどよい距離感にあるのでツアーの目標物になっているらしい。




あたりを見回すと、同種の木がいたるところに繁茂していた。

余談になるけれども、湿地帯に育つ木ではあってもサキシマスオウノキはマングローブ植物(5科7種)としてはカウントされていない。それは常時水没する区域ではなく水際から少し陸に上がったあたりに分布するためである。




しかしその足元をみれば、泥土からいきなり幼木の芽が伸びててっぺんに葉が茂っている様子が見える。ここは陸上とはいってもゼロメートル地帯で、水面上数十cmくらいの土面でしかない。大雨が降れば簡単に水没し、いわゆる下草の層がなかなか形成されないようだ。

吃水域に成立する森がどういうものか、筆者はそのスジの専門家ではないけれども、これを見てなんとなくわかったような気分になった。 荒天時や雨期(梅雨)にはここは泥水を被って泥田のようになってしまうのだろう。




・・・などと感慨にふけっている間に、滞在時間は10分ほどで終了した。ここは自然保護区なので休憩所や売店などの施設は一切無い。「とりあえず来たよ」 という記念写真を撮ったら、もう皆暇を持て余しているような雰囲気になって、「じゃ、そろそろ戻りますよ〜」 との声がかかってゾロゾロとまた人の列が動き出す。

筆者的には自然観察という切り口でもう少し何かあるんじゃないの・・・という気分にもなったけれど、ツアーは分刻みのスケジュールなのでそうも言っていられない。とりあえず 「マングローブを見たよ!」 というフラグがONになったからには、変にマニアックな思いつきに走ることなく流れに任せていこう。




仲間港に戻る途中、船頭さんがマングローブと汽水域の話をしてくれた。汽水域=海水と淡水の入り混じる水域では、塩分濃度に応じてマングローブの種類も変わるらしい。

・・・が、それよりもインパクトがあったのがそこで採れるこのシジミの話であった。シジミというと日本本土では大きさがせいぜい2〜3cmくらいだが、西表島ではこんなサイズになる。ただ南方の巨大シジミは "美味" とは程遠く、大味すぎて、話のネタにはなっても食べる人はいないそうだ。 ・・・うーむ、勿体ない。

<つづく>