写真紀行のすゝめ:ハードとか


ISO感度


今回はISO感度について書いてみます。もともとはフィルムの感度のことで、古くはASA(米国標準規格)として定められていたものです。 フィルム感度にはもうひとつの系統としてDIN(ドイツ工業規格)があり、最終的にISO(国際標準規格)には両方とも取り入れられています。日本では一般に従来のASA規格の表記が ISO*** (数値が入る) として使われることが多いようです。




フィルム時代は 「フィルムの交換」=「感度変更」 だった


昔のフィルムカメラではカメラ機構側に 「ISO感度を変える」 という概念はありません。感度はカメラ本体ではなくフィルム側の特性で、感度の異なるフィルムを装填することがすなわち "感度変更" だったのです。

このときフィルムに応じた絞り値やシャッター速度は撮影者が自分で判断して設定していました。年配の方で 「写真は難しい」 という印象をもっている人がいるのは、おそらくこの時代を知っているからでしょう。

1980年代になるとフィルムカートリッジにDXコードが印刷されるようになり、これを読み取ることで ISO25〜5000 までの感度(5bit)、撮影可能枚数(3bit)、ラチチュード(2bit)をカメラ側で 判定できるようになりました。このお陰でフィルム感度に応じたプログラムオート機能が使えるようになり、オートフォーカスの登場(1985〜)もあってカメラの自動化が急速に進んでいきます。素人でも設定をカメラ任せにして 「とりあえずシャッターを押せばそれなりに写る」 ようになったのがこの頃です。…が、結局フィルム単位でしか感度変更が出来ないことに変わりはありませんでした。




デジカメでも、フィルムに模してISO感度が使われている


デジカメでは、センサから読み取る電気信号の増幅具合で1カット毎に感度を変えられます。銀塩化学反応であるフィルムの感光/現像/プリントのプロセスと電気信号のマトリックスであるデジカメ画像を同列に扱うのに はそもそも無理があるのですが、フィルム時代のISO感度に似た指標としてデジカメでもISO感度表記が使われています。

とりあえず普段写真を撮って楽しむぶんには細かいことは気にしなくても良いでしょう。ISO感度を振ったときに一緒に何が変わるのか、その相対的な傾向↓を知っていれば十分です。主にシャッター速度と画質に影響します。



ところでシャッター速度はともかく、画質の良し悪しって何だ?…と思われる方がいるかもしれません。ここでいう画質とは大雑把にノイズの乗り方と思っていただいて結構です。デジカメで感度を上げるというのは、撮像素子の 捉えた光の強弱を増幅する度合いを上げる(→ゲインをかけるなどと言います)ということで、微弱な信号を無理矢理増幅すると、ノイズだらけのザラザラした画質になってしまうのです。

それをうまく補間して綺麗な画像を出力しようというソフト的な手段が、いわゆる画像処理エンジンです。単純にゲインをかけたのではノイズも増幅してしまうので、ノイズリダクションをかけています。最近のデジカメの画像が綺麗になっているのはこの画像処理に負うところが大きいと言われます。




何のために設定するのか?


さてISO感度を変更する理由のうち最大のものは、絞りとシャッター速度のトレードオフでは救えない明るさの問題を、感度を変えてやることで救ってやろうというものです。

たとえば暗いところで手ぶれを防ぐのに手っ取り早く効果があるのが絞りを開放にすることなのですが、ISO感度を上げてブレない程度のシャッター速度を得られるようにしても良い訳です。

そういう撮り方をした事例を右に示します。これは奈良東大寺の大仏殿内部です (f=55mm, ISO 1600,1/40秒, -0.67eV)。この堂内には照明はなく、窓からの自然採光のみで実はかなり暗い条件でした。かといってフラッシュを焚くと安っぽい絵になってしまうので、こういうところではやはりISO感度に頼ってノンフラッシュで撮る方が適しています。一般に文化施設や動植物園ではフラッシュが敬遠されるので、そういう意味でもISO感度の振り幅に余裕があるのは安心感につながります。

なお手ぶれしない程度のシャッター速度っていくら? …という基準は、人によって違います。風景やスナップ主体なら筆者は1/30秒より長くなるようならISO感度を上げていきますが、最近のデジカメはノイズ処理が格段に上手くなっているので、結構高感度域まで粘ってくる印象があります。




デジカメのISO感度スペックは、必ずしも画質を保証しない


ところで初期のデジカメでは、メーカー各社はそれぞれ独自の解釈で 「ISO***相当」 と銘打っていて、それは多分に自社に有利になるような(自主規制)でした。

これではいかんということで、すったもんだの末に2004年になってカメラ映像機器工業会で標準化が行われ、ようやく国内向けの規格が定まっています。民生用の最初のデジカメ(CASIO QV-10)の登場が1995年ですから、実に9年もかかって統一規格が出来たわけです。

…が、その内容をナナメ読みしてみると、「非可逆圧縮(jpeg記録)だとノイズ成分は平均化されちゃうから指標にはならないよねっ、だから中間調である18%グレーの輝度だけ見ましょうねっ♪」 …という内容になっていて、実はユーザーが一番気にしているであろう画質(というかノイズ性)については実に玉虫色というか…ありていに言ってスルーされていたりします。筆者はこの内容について良いとか悪いとかを論評する立場にはありませんので、まあそういうお約束が成立したのね…ということのみ理解しておこうと思います。

ところでこれだと同じ上限感度を持った複数機種のカメラがあった場合、その画質をISO感度のスペックのみでは比較できないことになります。たとえばこの機種はISO6400まで対応しているから、きっと高感度域でのノイズ特性も良いのだろう…ということは必ずしも言えないということです。やはり実際に出力された画像を見てみないことには、実力のほどは分かりません。




コンデジでISO感度を変えてみる




さてここでちょっと実験をしてみましょう。これ↑は暗い室内で、味も素っ気も無いマウスを普及価格帯のコンデジで撮ってみたものです。使用カメラは Nikon S8000 、感度設定は ISO 100 です。…まあ、普通に撮れていますね。




こちら↑は同じマウスを ISO 3200 で撮ったものです。全体的にノイズが乗ってザラついた感じになっているのが分かるでしょうか。特に黒い部分でノイズが目立ちます。…といっても、WEB素材として使うくらいなら通常は縮小することになるので、極端なアラは目立ちません。




ちなみに縮小なしの等倍画像で比較すると、細かい部分のディティールに差が出ているのが分かります。これがISO感度を極端に高くした場合のデメリットということになります。




デジ一眼でISO感度を変えてみる





ではデジ一眼ではどうでしょう。同じマウスを今度は Nikon D300 で撮ってみました。この機種は低感度側が ISO 200 からなので、ここでは ISO200 で撮っています。




同じものを ISO 3200 で撮ってみました。やはり暗部が多少ノイジー気味になりますが、コンデジに比べると画質は遥かに安定しています。




等倍画像で比較すると、コンデジがかなり無理をして感度を上げているのに対し、デジ一眼ではノイズは乗るものの比較的余裕をもっていることが伺えます。

実は今回比較した S8000 と D300 は、カタログスペック上はどちらも常用感度の最高値が ISO 3200 と表記されています。撮像素子のサイズは 1/2.3" とAPS-Cで面積は単純に見積もって20倍くらい。その割にコンデジ側のS8000が頑張っている印象がありますが、やはり差はあります。

そのような次第で、スペック値は同じでも機種によって画質は異なります。なまじ数値で表記されてしまうためついそれだけでで優劣を判断してしまいがちですけれども、 「自分のカメラは安いコンデジだけど ISO 3200まで撮れるから一眼レフ並みの画質だぜっ♪」 などという都合の良い話は期待しないほうが良いと思います。本当にそうなら価格差が10倍以上もあるような高級機種が売れる筈はないのですから…(´・ω・`)