写真紀行のすゝめ:撮り方とか


三脚不要論


さて今回は三脚不要論と題して書いてまいります。このサイトは 「旅と写真」 をテーマにしていまして、大仰な機材を抱えて本格撮影…というのではなく、フットワーク軽くあちこち出かけて写真を撮りつつ旅を愉しむというスタンスで運営しています。そのため携行する荷物はできるだけ軽く、持たずに済むものは極力持たないという、実に貧乏志向 (省エネとか省資源と言うとカッコ良く聞こえる ^^;) なお出かけスタイルな訳です。…で、今回はその不要なものとして三脚について独り言をつぶやいてみることにします。



かつて三脚撮影には威厳があった


三脚はかつて風景撮影のためには必需品と言われていました。 特に遠景までカリカリにピントの合ったいわゆるパンフォーカスの絵を撮ろうとすると、絞りをF10以上(人によってはF20とか)くらいまで絞り込み、さらにフィルムのISO感度は50くらいまで下げて粒状性の少ないなめらかな画面を目指す、というのが常道であったと思います。

そうするとシャッタースピードが稼げなくなるので、三脚でガッチリとカメラを固めて長めのシャッターを切ることになります。夕景、夜景など光量の落ちる時間帯は、フィルム感度をやや高めにし、絞りもやや開放気味にするなど光量を意識したセッティングにしますが、やはり三脚で固定することでシャッター時間の長さを補う取り方は一緒です。いずれにしても撮像面の暗さを三脚が救っていたわけです。

そしてその三脚は、少々の風や振動では揺らがないように、大きく、剛性があり、重いものが良いとされていました。大型の三脚でガッシリと一眼レフをセッティングしてレリーズしているカメラマンの姿というのはある種の威厳と威圧感さえ感じさせたものです。…まだフィルムカメラが全盛だった頃のことですが(^^;)

それが変わってきたのは、デジカメの性能が上がって最高感度が ISO 1600 あたりを越える機種が登場/普及し始めた頃のように思います。これが ISO 3200、6400、12800、25600 と増大して画質も向上していくと、手持ちで撮影できる範囲も広がっていき、夕方/朝方の薄暮の時間帯くらいまでなら手持ちのまま撮影してしまう人が出てきました。昼間の遠景撮りなどはなおさらで、高感度側に余裕をもった撮影を行えるため手持ち撮影が一般化し、三脚の出番が減ってしまったのです。滝の流し撮りとか超望遠での鳥撮といった用途ではまだまだ三脚は健在のようですが、トレンドとしてはやはり衰退の方向に向かっているように筆者には思えます。

そういう筆者も昔はよく三脚を使った撮影をしました。しかしトレッキングで何kmも山野を歩くときに持ち運ぶのにはさすがに疲れてイヤになり(笑)、人混みの多いところではセッティングするスペースがなくイヤになり(笑)、草木をマクロで撮ろうとしては風で花のほうが揺れてしまって 「カメラだけ固定したって意味がねぇっ! ヽ(`д´)ノ」 と悟り?を開き、結局手持ち撮影で軽装のほうがいいや・・・という結論に達して今に至ります。

…うーん、ヌルいなぁ(笑)




三脚の使えないスポットが増えている


三脚に関しては深刻なのは、デジカメの感度向上で出番が減ったこと以上に、三脚使用禁止のスポットが増えていることです。この動きは90年代後半くらいから顕著になってきたように思います。

有料拝観施設である動物園や植物園、水族館、博物館などから始まって、立派な庭園のある神社仏閣やレジャー施設などにも広がってしまいました。昔はこんなに制限が厳しくなくて、もっとおおらかに 「どーぞ、どーぞ」 という感じだったんですけどね。

この問題に関する正確な統計というのは筆者は見たことがないのですが、聞いた範囲で話を総合すると、マナーの問題と金銭問題が両方絡んでいるようです。

マナーの問題とは、非常識なカメラマンが増えて施設が迷惑を被っているというものです。典型的な事例は沢山の拝観者がいる園内で一番ロケーションの良い場所を三脚で占有して、あーでもない、こーでもないと設定を変えながら長時間居座り続けるカメラマンでしょう。「雲の流れ具合が良くない」 「日差しが良くない」 などと何十分も居座り続けた果てに、同じ料金を払って入館した他の観光客の不評を買ってしまう訳です。困ったことにこの種の問題を起すのは年配の方が多いようで、若い係員から注意されても聞く耳を持ちません。

同じような意味で、長時間居座り続けるスケッチ客も敬遠されています。ある意味では写真撮影よりも性質(たち)が悪く、折畳み椅子に水筒持参で平気で半日以上も最良ロケーションの場所を独占しているケースもあって、もうほとんど営業妨害の粋に達しています。こちらも年配客が多く、しかも女性グループが多いのだそうで、退去をお願いすると割と素直に引いてはくれるのですが、後日いろいろな尾ヒレがついた口コミ(もちろん中身は施設の悪口)がワーっと広がるというオマケが(中略)そうです。…こうなると 「最初から入場をお断りしよう」 という判断になるのも無理からぬものがありそうですね。

もうひとつの金銭問題とは、著名な神社仏閣やリゾート施設などで撮影した写真やビデオ映像を 無断で商品化して販売する者が後を絶たないという問題です。

そういえば、最近ネズミのキャラクターで有名な東京湾岸の巨大遊興施設で事件がありましたね。観客として入場した人が勝手に園内のイベント映像(動画)を撮影してDVD化し、販売したとして逮捕されたのです。

聞けばかなり本格的な機材で撮ったものだったようで、それをきっかけにネズミ施設では園内への三脚持込みが禁止になってしまいました。夜のイベントを撮影しようとして 「えっ」 と驚かれた方も多いでしょう。

…で、こういう事例が長年にわたって積み重なった結果、著名な観光地やリゾート施設で重量級の機材をもってウロウロする人はあまり好意的には受け入れられなくなっています。あらぬ嫌疑をかけられないためにも、今の時代、観光施設に三脚は安易に持ち込むべきではないのです。




三脚なしで撮ってみよう


さてそんな訳で三脚に頼らない撮影について考えてみるのですが、これはもうカメラをしっかりホールドし、高感度撮影で手ブレを押さえ込むのが基本になります。手ぶれを抑えるのに絞りを開放気味にするかISO感度を上げるかは、もう個人の好みで好きなほうを優先させればいいと思います。どのみち本当に暗くなってしまったら絞り開放+ISO感度MAX 付近での撮影になりますし、十分遠景ならフォーカスは無限大で背景ボケがどうこうという世界ではなくなります。一番優先度が高いのは手ブレを抑えることです。




この作例↑は京都タワーから見下ろした京都下京区の夜景です。ちょうど日没直後でトワイライトの時間帯です。

AF-S Nikkor 18-200 , F4 , ISO 3200 , 1/30秒 …と暗いズームレンズで無理矢理ISO感度任せで撮ったような1枚ですが、フィルムカメラだとちょっと厳しいコンディションでもデジカメでは割とすんなり撮れているように思えます。もちろん手持ちです。



もう少し時間がたって暗くなった状態↑です。シャッターは1/15秒になってそろそろ手持ちも厳しくなってくるのですが、なんとか頑張っています。絞りは開放で、フォーカスを無限遠にすると手前の人物はさすがにボケ気味になりますがこれはまあ仕方の無いところでしょう。

なお建物内では壁や柱、手すりなどに肩や背中を当ててカメラを構えるだけでもかなり姿勢が安定し手ブレが抑えられます。この作例を撮影しているとき、筆者は背後の太い柱に背を預けて脇を締めてカメラをホールドしています。なお写真では手前のカップルの女性の方がコンデジを持って夜景を撮影していますが、この姿勢ではおそらく手ブレしてしまっているように思います。せめて目の前の望遠鏡のフレームに乗せて撮ればもう少し安定すると思うのですが…まあ余計なことでしょうかね(^^;)




一脚という手段もある


姿勢をとるときに壁や柱の使えない場所では、一脚を使うという方法もあります。さきほど事例に挙げたネズミの施設では盗撮事件が経営者の逆鱗(?)に触れてしまったらしく今では一脚すら禁止されてしまったそうですが、他の観光施設ではそこまで厳しい措置はまだ見かけません。



一脚は三脚を一本足にしたもので、こんな↑外観の小道具です。一本足なのでもちろん自立はしませんが、手ブレは殆どの場合カメラの姿勢が上下方向に振れて生じるので、下面を支えるだけで格段に安定します。折り畳めばリュックやカバンに放り込んで携帯することも可能、そしてなにより三脚のように展望スポットを長時間独占せずサっと撮ってサっと撤収できる機動性が強みです。

一脚もカメラを取り付ける雲台の部分は三脚と同様に交換することができます。…といっても重量級三脚のようなハンドルつきのゴツイ奴は一脚には向きません。そもそも一本足で自立できない一脚にカメラをガッチリ固定するメリットはほとんどなく、筆者の場合は安価で軽量なボール式のものを付けています。閉め込めば固定もできますが普段はフリーにしておき、一脚を軸にしてくりくりとカメラを振って被写体を追いかけるようにするのです。




一脚の活躍するシーンは夜間の祭りや縁日などのシーンです。といっても筆者の場合、カメラを取り付け脚を伸ばした状態で杖のように持ち歩く訳ではありません。普段は畳んだまま小脇に抱えているか、バッグの中に入れておき、殆どのシーンはISO感度を上げての手持ち撮影です。そして 「ここぞ」 というシーンのときだけ、サっと伸ばしてカメラを載せて撮影する…という使い方をしています。縁日や祭りに出かけても、一脚の活躍する撮影シーンはおそらく5%もないでしょう。(※もちろん、人によってスタイルは違います ^^;)

そんな使用頻度なら必要ないじゃん、という方もいるかもしれません。しかし考えてみましょう。明るい昼間の屋外であれば安価なカメラでもそれなりの写真が取れるのに、なぜ高級機が一定の支持を受け売れ続けるのか。皆、撮影枚数にすれば全体の数%にしか過ぎない厳しい境界条件での撮影を有利にしたいからなんですよ。一脚は安価なものは \3000 くらいから入手できます。ISO感度を1段上げるのに新機種のカメラを買うより、安い投資で環境改善が図れると思うのです。…って、これではまるで深夜の通販番組みたいなので、この辺にしておきます(笑)

ところで肝心なとき、一脚すらなかった場合はどうするのか?

…それはもう、フェンスでもポールでもゴミ箱(笑)でも、利用できるものは利用して姿勢を安定させるしかありません。なにか安定したものにカメラを載せて、せめて上下方向だけでもカメラがふらつかないようにすれば、それだけでも格段に手ブレが減ります。これはもう、創意と工夫次第ですね…(^^;)